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●森屋穂花



 ブレイカーがトリップし、暗闇でなにも見えなくなってしまった。このマンション(孤児院)のすべての電気が消えたのだろう。


「証言のひとつだと思ってたすけど、本当にトリップするんすね」


「みたいだね……それに」


それに巨大なカメレオンのドアに体当たりしていた音が聞こえなくなった。電気が消えた瞬間に走ってどこかへ向かったのだ。

単純に考えてブレイカーを直しに行ったのだろう。


ドンッ。



「「いたっ」」



壁に触れながら少し歩くとなにか、いや誰かに当たった。

声を聞くに美玖ちゃんではない。


「ごめんなさい、ケガは無いですか?」


「……う、うん。ホノは大丈夫だけど」


「いや、今の無し。私はなにも話してないですから、ほんと息してないですから」


なんなんだ。

見えないのは怖いからスマホのライト機能を使う。


足元には倒れている20代の女性、胸元と口にケチャップが付いている。遺体役。

院長のお孫さんだろう。


横には原稿用紙。



───────────────────


【管理人】

 死亡時刻10分前。


───────────────────



「おかしいっすよ。10分前って言ったらわっち達がこの孤児院に入った頃合いっす」


「なるほど、じゃあホノは選択を間違えたかな」


「どういう意味っすか?」


「この部屋を先に見ていたら管理人から証言が得られた可能性が高い」


ホノ達がこの部屋に最初に見た時は電気がついていて誰もいなかった。しかし管理人がお手洗いなどで離れていたとしたら。

ここを調査している最中に帰ってきたのかもしれない。


……でもおかげで犯人が分かるじゃないか。


しかし動機だ、マンションの住人ってこと以外接点の無い被害者達。


ホノは管理人室の様子を見渡す、山になっていたはずの原稿用紙は散らばっている。管理人と犯人が争ったのか。

内容を見るに【人間サイズのカメレオン通り魔】について書かれた原稿用紙が何枚も。新聞の役割をしているのだろう。


管理人はこの事件のことを調べていた。


「穂花ちゃん、これとか証拠にならないっすか?」


美玖ちゃんが持ってきたのはこのマンション(孤児院)の情報。


「ありがと、役に立ちそう」


「それは良かったす!」


それを見るにこのマンションは元々4階までしかなく住人が増えたことにより6階まで追加したそうだ。そのことにより電気量の消費が増えブレイカーがトリップするようになった。

そして非常階段も1階から4階までしか無い。


ブレイカーは外のバラ園あたりにあるらしいから巨大カメレオンは出入り自由だと考えると非常階段を使って移動をしていたのだろう。


だから上の5・6階には来なかった、もしもホノ達が逃げて犯人(巨大カメレオン)の部屋をノックしたら非常階段も使えず対応が難しいから。


「これで巨大カメレオンが4階で待ち構えることが出来たトリックも説明出来るね」


次にホノは管理人が書いたと思われるメモ帳を見つけた。



───────────────────


  世間ではこれを【巨大カメレオン通り魔事件】と呼び迷宮入りにしようとしている。

 警察はなんて無能なのだろうか、火を見るよりも明らかじゃないか。


 通り魔はこのマンションに住んで、のうのうと生きているのだ。


 被害者が出るのは前日に誰かのせいでブレイカーのトリップした時だ。明確に誰のせいで、と分かる時。

 ……となるとかなり腹を立てていたあの4人のなかに。


 昨日、303号室のA子さんが歌の練習だとかで電気を使いすぎてトリップが起きた……次は彼女かもしれない。


───────────────────



パタンッとメモ帳を閉じて、



作者(はんにん)の気持ちになれば作品(じけん)の最後はおのずと解る」



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



 「それで犯人は誰なんすか?」


「難しくもない、ホノ達がこのマンションに閉じ込められたのは10分くらい前。管理人室も少しだけ見たけど誰もいなかった、それはなぜかな?ジャーナリスト君」


「管理人さんが用事とかで出かけてたからっす、探偵さん」


「そう、でもこうして10分前に殺害された管理人さんの遺体がある。ホノ達とは入れ違いさ、少しの誤差。そうなると殺害出来る人物は限られてくる」


「動機はなんすか?」


「このメモ帳に書いてあるように管理人さんは容疑者を4人までしぼれていた。口封じのためだろう」


「ならなんでメモ帳を盗まなかったんすかね?」


「焦って見つけられなかったか、先にホノ達を始末してしまおうと考えたからじゃないかな」


非常階段があることで4階までの住人なら誰でも管理人を殺害出来そうなものだけど、ホノ達が来てすぐ後なのだ。つまり捜査の手がこのマンションにまでとうとう迫って来たと焦った人物の犯行。


「なにより2人目の被害者である102号室の男性が出かけてすぐに分かるのは()だけ。というよりも彼ならどの階の住人でも出かけた時間が分かる」


ドアスコープを覗き込んで、ターゲットが出かけるのを待ち。巨大カメレオンのきぐるみを着て犯行に及んだ、という筋書きだろう。



「犯人は101号室の髭をつけた男の子っすね」



「その通りっ!さあ謎解きは終わったよ!さっさと巨大カメレオンに追いかけられるなんておぞましい推理ゲームを終わらせてもらおうか!」


暗闇の中、スマホのライトに照らされながらホノは遺体を演じている院長のお孫さんを指差す。


パチパチっと拍手の音が響く。


「正解です、名探偵さん」


「なら早く出しなしゃい!」


「ただ事件はまだ終わっていませんよ?マンションは鍵が閉められて警察は中に入って来れない。しかし犯人はまだ野放しです」


……つまり探偵が犯人を取り押さえて、この推理ゲームは終わる。

嫌です、あんなおぞましいきぐるみを着ている犯人なんて捕まえたくない。


「でも捕まえる道具はどこに?」


「ロッカーの中に紐があるのでそれを使って下さい」


「教えてくれるんすね」


部屋の隅にあるロッカーを開くと、3メートルほどの細い紐が2本用意されていた。




「それで推理小説家はお孫さんってことすかね?」


美玖ちゃんの質問に首を横に振って答えるお孫さん。


「小説を書いているのもこの推理ゲームを考えたのもうちの()()()ですよ」


「「え?」」


ホノたちは顔を見合わせる、いくら合作だと言っても全員10歳前後だ。

驚きってレベルじゃない。



「ペンネームは『ジョン・ウェストテンペル』。おばあちゃんや私にお礼がしたいと小説をみんなで書き始めたそうなんです。まさかあの愚昧灰荘先生に声をかけてもらえる程の実力とは、鼻が高いですね」



ケチャップをべったりつけた口でにこりと微笑んだ。



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



 とても良い話を聞いた後で悪いのだけど、勝たせてもらうよ。

勝ち続けてホノはあの愚昧灰荘に直接悪口を言いまくってやるんだい。


「美玖ちゃん紐持った?」


「完璧っす!」


「まずは動機確認、電気がついたらすぐに101号室に乗り込むよ」


探偵小説というよりも警察物のアクションだ。

ホノは体力を使わないで済む安楽椅子探偵が嬉しいのに。

まあ、たまには良いか。


こちらには運動神経抜群の美玖ちゃんがいる。

彼女が一瞬にして取り押さえてくれるだろう。


しばらくすると電気がついた、と同時に管理人室を飛び出して101号室に入り込む。

鍵は空いていてやはり中には誰もいない。


……が。


「ほ、穂花ちゃん。落ち着くっす」


「やだやだやだやだやだやだやだやだ──っ‼」


101号室の光景に意識が飛びそうになる。


いくつもの鳥カゴや飼育ケースの中にいるカメレオンたち、一瞬見ただけでも10匹以上。

手足が震えだす。


もうだめだ、絶対に悪夢見るから小学生以来ぶりににぃにと一緒に寝よう。


急いで目を閉じる。


「動機はこの子達だね。トリップしている最中はこの子達の飼育に使っている機具が全て使えなくなる」


紫外線ランプや自動にミストを出して水やりをする機械がそれぞれ置かれている。


「でもこんなに飼育のために電気を使っていたら、ブレイカーがトリップする原因はここにもありそうっすけどね」


「自分は棚上げ。動機なんて勝手なものばかりさ」


さて、動機も分かったことだしすぐに部屋を出て犯人をこの紐で捕まえてしま、



パンッ。



なにかが破裂する音。

聞こえてきた方へ視線を向ける赤い液体でびしょびしょに濡れた美玖ちゃん。足元にはオモチャのナイフが落ちていた。


ドアの外に巨大カメレオン。

どうやらナイフを投げて美玖ちゃんの首にかかっていた水風船に命中させたようだ。


「うっ、やられたっす」


特にダメージは受けていないけどどさりと倒れる。


「えーっ⁉︎美玖ちゃんだけが頼りだったんだよ⁉︎」


「すまないっす、完全に油断……というかこの赤い液体、絵具で色つけてるぽいから早く洗わないと落ちないっす」


そんなこと言ってる場合じゃない。


巨大カメレオンが101号室に入ってきた。

走ってホノの方へ突進してくる。なんだこの悪夢は。


「うぎゃあっ」


避けて後ろに回り込む。

急いで巨大カメレオンの身体に紐を巻き付かせて、


「ぎゃああ!触り心地が本物っぽい!」


「あと少しっす!頑張れ穂花ちゃん!」


ハドソン夫人と同じ感触のするきぐるみ、なんで忠実にした。これを作った人を恨んでやる!


ぐるぐるぐる。

恨みを込めて夢中でぐるぐるしていたら、巨大カメレオンを捕まえることに成功した。



「も、もう終わり!ホノ達の勝ち!それで良いかい巨大カメレオンっ!」


「あはは!あーあ、負けちゃった。でも楽しかった!またやろうねお姉ちゃんたち!」



おぞましいきぐるみの中から声変わり途中の可愛らしい笑い声。

それを聞いたら身体の力が全て抜けてその場にへたりこむ。

カメレオン達がこちらを見ているが逃げる元気もない。


「うぐっ……終わった。やっと終わったよぅ」


「よく頑張ったすね、帝一さんもきっと褒めてくれるっす!」


「……にぃにに迎えに来てもらう。足動かないからおんぶされて帰る」


嫌いなものが余計に嫌いになった。


ぐぬぬっ。この恨み晴らさずおくべきか。

おのれ灰荘。




ジョン・ウェストテンペル

 孤児院の子供達(12人)の合作

 年齢/5〜12歳


【補足】『ウェストテンペル孤児院の推理ゲーム』

 巨大カメレオンが4階を占拠していたのは5、6階に非常階段がなかったのもあるが単に子供の数が合わなかったから(普段は客間や倉庫などに使ってる部屋があるため)。


 得意ジャンル:アドベンチャーミステリー

【出版】『冒険家探偵ルイス〜はじまりの呪い〜』

 冒険家の家系に生まれたルイス・トレンジャーは探偵になるのが夢だ。

 しかし家族に言い出せず何年も冒険家として生きてきた。

 そんな彼のもとに『とある冒険家がエジプトの秘宝を盗んだせいでファラオの呪いによって亡くなった』と不思議な噂が舞い込む。……ファラオの呪いなどあるわけがない。

 ルイスは真実を探るべくエジプトへと旅立った。

 蘇ったミイラの謎。秘宝の呪いと称して起きた殺人事件。

 探偵に憧れた冒険家、はじまりの事件が幕を開く!

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― 新着の感想 ―
[一言] この作品が僕は大好きなのですが、最近更新されておらず…。 もしよろしければまた再開していただけると嬉しいです。 身勝手なお願いで申し訳ございません。
[一言] ミステリーは好きですが重たい話は苦手なので、こういう智恵比べのようなストーリー展開もいいなと思いました! 頑張って下さい!(*´ω`*)
[良い点] 楽しく読ませて頂いてます。 最終的に妹を泣かせてしまいそうでハラハラしますが、今後とも応援しています! [気になる点] 所々ではありますが、言葉の用法が怪しいかなと感じました。 例えばブ…
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