表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
57/80

4/5

●森屋穂花



 ……はあ……はあ。


パニックをおこして過呼吸になりかけたけどなんとか落ち着かせることが出来た。

ホノと美玖ちゃんが逃げ込んだのは最上階の6階。猛ダッシュで階段を駆け上がったらしい。


4階で待ち構えていたのは巨大なカメレオン(本物にしか見えないリアルさ)のきぐるみを着て、ナイフのようなものを持った危ない人。大きさは推定160cm程、たぶんこの孤児院の院長のお孫さん……いや、顔の動きが空洞かのように不自然だったから子供の可能性の方が高いか。


そんなことより帰りたい。どうして推理ゲームであのおぞましい生き物と対面しなくてはならないのか。


「穂花ちゃん、我慢っす。たかがきぐるみじゃないっすか、本物じゃあるまいしいくら嫌いでもなんとかなるっす!」


美玖ちゃんが励ますように背中をさすってくれる。

けれどね、見た目が嫌いなのだから関係ない。


「嫌いなものは嫌いなんだい、おぞましいものは作り物って分かっていても嫌なんだい」


「巨大なカメレオンに追われながら謎解きっていうのは斬新すね、B級のモンスターパニック物の映画みたいっす……でもあの持ってたナイフって本物なんすかね?」


「それは無いよ、灰荘が『誰も死なない』という名目を掲げているのなら外れるようなことはしない。プライドが許さないはずだよ……おそらくこれを破るためのものだろうさ」


ホノはお互いの首にかかった水風船に視線を移す。

これが破られたら通り魔に殺害されたと判断されてホノ達の敗北だということだろう。

つまり推理ゲーム×一方的なサバイバルゲーム。


「なるほどっす。灰荘は知ってるんすかね?」


「なにを?」


「穂花ちゃんがカメレオンを嫌いだってことをっす」


……それ以上言わなくて良いよ、ジャーナリスト君。

そのへにゃっとした顔を見たら分かる、つまりあれだろ【愚昧灰荘はカメレオン嫌いを知ってる人物】と推理し、結論にぃに=愚昧灰荘にしたいのだろう。


しかし残念だね。


「にぃにならジャクソンカメレオンじゃなくてエボシカメレオンにするはずだよ」


「ジャク……なんすか?」


にぃには爬虫類全般好きだけど特にエボシカメオンがお気に入りなのだとか。

『頭の三角がとにかく可愛い』と言っていた。共感は一切しないけど。


人間が入れるリアルなきぐるみ、作るのもお金がかなりかかりそうだ。それなのにトリケラトプスみたいに3本のツノが生えているジャクソンカメレオンを選ぶのはにぃにでは無い。


「そもそもホノのカメレオン嫌いは獣医のドリトル・チャルマーズにもバレてるから証拠にはなり得ない」


「……なんか帝一さんの疑いがかかると探偵というよりも弁護士みたいな口調になるっすよね」


「ほ、ホノはいつでも探偵さ」


冗談でかけてもいないメガネを中指でくいっと上げる動作をしてみる。


話していたら息が整いはじめてきた。


どういうわけか時間が結構経つのにカメレオンは追って来る様子はない。

4階で待ち伏せ……もしそうなら1階の管理人室に行けないじゃないか。



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



頭が真っ白になって記憶が少し飛んだような気がするから今のところ手に入っている事件の詳細をまとめていく。



───────────────────


 通り魔に殺害されたのは3人、1週間毎のペースで事件が起きている。

 ウェストテンペルマンションの住人だけが狙われた。


 《被害者》


【1人目】

 5階に住んでいた女性。


【2人目】

 1階に住んでいた男性。


【3人目】

 3階に住んでいた女性。歌姫であるA子。


 住居以外の接点はなく、年齢もばらばら。

 マンションから5km程離れた路地にて背中を刺されて絶命している。


───────────────────


 《1階の住人》


【101号室(感じの悪い隣人)】

  「マンションの住人だったのは偶然の一致、恨まれるようなことをしてたんだろ」


【102号室(被害者2)】

 確認出来ず。


【管理人の部屋】

 未確認。


 《2階の住人》


【201号室】

  「こ、この部屋の窓から被害者を追いかけていく変な化け物を見た。そ、そしたらソイツが俺を見てきた……なあ、次は俺なのかなぁ」

 あまりに怯えたように変なことを話すものだから危ない人設定かと思ってしまったが、あれはカメレオンのことだったのだろう。


【202号室】

  「……」

 目にクマが書いてあって何も言わずにドアを閉められてしまった(だから話は聞けていない)。


【203号室】

  「通り魔、隣の部屋のやつが怪しいんじゃねぇか?アイツ暗いし女にフラれた腹いせに殺人とかしそうだ!……いや2人目は男だったか、けけっそっちが本命とかな。これで決まりだろ!」

 とゲス顔を浮かべていた(8歳くらいの男の子)。


 《3階の住人》


【301号室】

  「彼女たちは偉大なるお方に逆らった、それ故に天罰が下ったのだ」

 12歳くらいの女の子でおでこに目が書かれている。部屋から線香と怪しげな宗教の臭い。


【302号室】

  「事件と関係あるか分からないんですけど、ここ最近ブレイカーがトリップするのが減ったんですよね。前はしょっちゅうだったのに」

 1時間に1回のペースでブレイカーがトリップして電気が消えていたのに事件が起き始めてから1日に3回くらいまで減ったらしい……それでも多いくらいだけど。


【303号室(被害者3)】

 確認出来ず。


───────────────────



4階からはあの巨大カメレオンに驚かされてまだ確認出来ていない。


「それにしても6階は鬼畜っすよ!容疑者が多すぎて長編確定じゃないっすか!」


「まあ、容疑者候補は1階に1人くらいで他は情報提供者といったところじゃないかな」


「でも誰もアリバイを証明出来ないじゃないっすか……あ、でもあのカメレオンを捕まえてきぐるみを脱がせたら速攻解決っすね!」


「探偵としての美学が無いっ!」


近づきたくないだけなんだけど。


まずそれをしても良いのか。

頭脳対決なのに力技で解決してしまったら興醒めも良いところだ。だけどあちらも水風船を破れば勝ちなんだから別に構わない気もする。


「とりあえずカメレオンに見つからないように5階と6階を調べちゃおうか」


「了解っす!」



───────────────────


 《5階の住人》


【501号室(被害者1)】

 確認出来ず。


【502号室】

  「……すみません、話すことはありません」

 ペコリと頭を下げてドアを閉められてしまった。隙間から見えた部屋の中にはダンボールが積まれている。


【503号室】

  「502号室の彼、最初の被害者の女の子と付き合ってたから精神的にきてるわよね。すぐに出て行くそうだけどこれから強く生きてほしいわね」


 《6階の住人》


【601号室】

 ノックするとパンイチの男の子(9歳くらい)とブランケットを巻いた女の子(10歳くらい)が出てきたからすぐに閉めてやった。

 流石に危ない。なにも見てない。


【602号室】

 ドアに名刺が貼ってあり、隣の部屋で見たブランケットの女の子の顔写真と名前、電話番号、そして口紅の跡……なにも見てない。


【603号室】

  「変な事件だよな、同じマンションの奴らが結構離れた外で殺害されて。しかも犯人はきぐるみを着てるんだろ?頭おかしいだろ」

 テレビで報道されていたと犯人の特徴を教えてくれた。まんまカメレオンそのものだったと。


───────────────────



見た目10歳前後の子供達が推理小説の容疑者になっているのがぶっ飛び過ぎていて面白い。

内容は恐ろしいのに可愛いのだ、矛盾。


「……残るは4階っすね」


「う、うん」


絶対に行きたくないけど向かわなければこの推理ゲームは終わらない。

それにカメラが設置されているとしたらホノが怖気付いてるのも憎っくきベストセラー作家愚昧灰荘に見られて、嘲笑われているに違いない。

そう考えたら腹立ってきた。ぷんすかぷんぷん。


ゆっくりと階段を降りて、スマホのカメラ機能を使って4階の様子を確認。

通路には誰もいない。


「今のうちに調べ……」


小走りで401号室に向かいながら、後ろをついてきている美玖ちゃんに視線を向けると。


「ん?穂花ちゃん、どうしたん……すか」


ギョロッ。


窓の外からこちらを見ている人間サイズのカメレオン。

ペタリと窓を触ってガラガラっとスライドさせて開ける……窓枠に足をかけて廊下に入ってこようとしている。


あ、まずい。恐怖心で足が動かない。


ダダダダダダッ、と近づいてくるカメレオン。

怖い怖い、にぃにがいたら泣きついてる場面だ。


「──っ」


「とりあえず下の階に逃げるっすよ!」


美玖ちゃんがぐいっと手を引いてくれたから走り出す。階段を下りていく。

しかし先程とは違いカメレオンも全力で追いかけてくる。


「こわっ!二足走行のカメレオン怖すぎるんすけど‼︎」


「み、美玖ちゃん!1階の管理人さんの部屋に向かって‼︎」


手を引かれているおかげでもあるが、阿達マシロの茶番に付き合わされて体力がついていたから管理人さんの部屋まで捕まらず辿り着けた。

……もしかしたら探偵にも体力は必要かもしれない。


急いで扉を閉めて立てこもる。

電気が付いていないから真っ暗になるが気にしていられない。


ドンッ!ドンッ!ドンッ‼

巨大カメレオンが管理人の部屋の扉へ体当たりしている音が響く。


「やだやだやだ。カメレオン嫌い……帰ったらにぃにの胸に飛び込んでやる」


「なんかそれ、死亡フラグっぽくないっすか?」


ドンッ!ドンッ!ドンッ‼

体当たりしている音が続くが鍵は閉めたから安全なはずだ。深呼吸して落ち着かせる。


明かりをつける為に電気スイッチを壁を触って探す。


(……あった)


スイッチを押した瞬間。



ぱすんっ。

ブレイカーがトリップした。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ