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レプタリアンの追走劇 1/5

挿絵(By みてみん)

●森屋穂花



 体育は得意ではない。

というよりも探偵は頭脳さえあれば事足りる、よって体力なんて不要。

力仕事は警官達の領分であるはずだ。


……だというのに。

木曜日の4時限目、体育。

ホノ達のA組とC組の合同授業、C組といえば人気俳優を兄に持つ彼女がいる。


パシンッ。


ドッチボールの最中、彼女が投げたボールがホノの顔面めがけて飛んできたけど見事にキャッチ。初めては当てられたが何度も狙われたら嫌でも取れる。


「お花畑ザコ!なに取ってんの?早く退場しなさいジャマ」


「阿達マシロ!顔を狙うとか性格悪すぎるよ!あと顔面セーフだから‼︎」


阿達マシロ、ツインテールのSNS探偵。

そしてホノとは犬猿の仲である。

平和主義なホノだが、ここまで敵対意識を持たれて見下されていたら腹も立つから挑戦を受けている。


お返しだ、と振りかぶってマシロに向かって本気で投げてみるけど、運動音痴だしこの細い腕ではそれほどスピードは出ない。


「はーいザコ」


なんらく取られてしまう。

くそうっ、こんなことならムキムキに生まれたかった。今からでも遅くない朝早く起きてにぃにとジョギングするのを日課にしよう。


そしたらスポーツ漫画みたいな豪速球を投げるんだい。マシロが涙目になるのが目に浮かぶわい。


バコッ。


「──うぐっ」


妄想に逃げていたら顔面にボールを食らっていた。

マシロも筋力は無いから鼻血が出るほどの威力は無いけど痛いものは痛いのである。


クラスメイトが心配して駆け寄ってきてくれた。

ハンカチを手渡してくれる。恥ずかしがり屋が発揮されてしまいペコリと頭を下げることしか出来ないのが恨めしい。


「勝負の最中に考え事とは余裕じゃない?ケガしても知ら──きゅうっ」


バコッ。


けっ、怒りのパワーを乗っけてマシロの顔に命中させてやったよ。

案外可愛い悲鳴が聞こえて驚いたけど。


「君こそ人を見下してばかりだから前が見えないのかね?」


「……良い子ちゃんみたいな顔してるくせにいい度胸してるじゃない」


ギラリっ。

クラスメイト達は距離を取る、こんなことをしていたら君の兄である阿達ムクロの名誉に傷がついてしまうのではないだろうか。


それからは顔面狙いのキャッチボール。


「そろそろ疲れてきたから諦めて当たりなさいよ!」


「ほほうそうかい。ほ、ホノはまだ頑張れるよ?体力不足ではないかねSNS探偵マシュマロ様」


「が、学園でその名前で呼ぶなしっ!」


マシュマロ様を演じている時はあんなにも優しく可愛いらしい笑顔を浮かべるのに本当に残念な娘だ。


バンっ、パシンっ、ポンっ。

チャイムが鳴るまでこの不毛な戦いは続いた。



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



 「お二人とも、どうして先生が呼んだか分かりますか?」


「はい」「ふんっ」


場所は職員室。

短髪でボーイッシュな見た目の体育兼1年A組担任・秋元先生が呆れたようにため息をついた。

今年からアラサーになるそうで婚期を気にしはじめているらしい。彼氏は募集中だとのこと。


深々と頭を下げて謝るホノとツインテールを揺らして反省する素振りさえ無いマシロ。


「貴女達は見た目からして目立ちますし、学年トップの成績なのですからその自覚を持って欲しいですね」


議題はもちろん【注目されている新入生達が体育の授業でケンカしている問題】である。


「すみませんでした秋元先生」


深く、深く反省しております。

だから家族、特ににぃにへの告げ口はご勘弁願いたい。


「森屋さんは大人しい印象でしたので驚きましたよ、今後気をつけて下さい」


「あーやだやだ猫かぶり」


キッ。


「君はもう少し教員に敬意を払うべきじゃないかね」


「は?誰がこんな合コンザコにヘコヘコしなきゃいけないわけ?」


「……ご、合コンザコ」


クリティカルヒット。

おそらく1番ダメージを受けるであろう呼び名をつけられて白目を向いて、意識がどこかへ飛んでいきそうな秋元先生。


「呼んだ理由がこのお花畑ザコと仲良くしろってことなら断らせてもらうわ。相性最悪、目が合えば戦争よ」


どちらかと言えば君と相性の良い人間を教えて欲しいくらいだね。

そんな風に見下してたら誰も心を開かないよ、なにをしても許してくれるのは世界中探しても君の兄・ムクロぐらいじゃ。


……まあホノも似たようなものか。


でも友達はいるし、他人のあら探しが大好きで決して性格が良いとは言えないジャーナリストの友達いるし。



「争いではなにも生まれません。相手の悪い面も認め合って許し合う、『ありがとう』と『ごめんなさい』が言えれば戦争は起こりませんよ」



聖母のように微笑みかける秋元先生、いつもは少し頼りなさを感じていたけどやはり教員なんだなと思う。


「ふんっ、それって力がある奴らが得する考えよ。弱者だけが許容と我慢を押し付けられる、この世界は優しい奴らが搾取されるように出来てるんだから」


「そもそも人間が人間である限り戦争は無くなりません。残念ですが」


「……い、息ぴったりじゃないですか」


涙目になってしまった。

少し大人げなかったかもしれない。


「それ以上言うことがないなら、お弁当を食べる時間もなくなるし教室に帰るわ」


とマシロはツインテールを揺らして去っていく、わざとかもしれないけど彼女の髪がムチのように当たってきた。考えるまでもなくわざとか。


ガラガラ、パシャンっ。

扉は優しく閉めようよ。


「では私も帰らせてもらいます。失礼しました」


「少し待ってください」


「はい?」


秋元先生は鍵をかけたロッカーを開けて、そこから1枚の封筒を取り出して手渡してきた。

なにかしらのプリントだろうか。


ホノが首を傾げると微笑みが返ってきた。

そして机を四度と軽く叩いて、



「『ノック』と言えば伝わるそうですね」


「──っ」



「今回はアドリエッタ先生が選ばれた弟子候補ですので気をつけて下さいね探偵さん」



予想外すぎて思考停止してしまう。

ベストセラー作家・愚妹灰荘の信者がホムズ女学園の教員の中にもいるだなんて。しかもホノの担任。全員が怪しく見えてくる。


以前見つけた掲示板のようにファンクラブ内で情報共有しているのかもしれない。


ホノはペコリと頭を下げてから早歩きで職員室を出て行く、そして美玖ちゃんと待ち合わせしている屋上へと向かった。



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



 興奮状態で屋上に辿り着き、お弁当を一緒に食べようと約束していた美玖ちゃんに職員室で起きた全てを話し封筒を見せた。


するとへにゃっとした笑いが返ってくる。


「あの秋元ちゃんも灰荘の手下っすか。手広くやってるんすね……生徒会長、風紀委員長、教員、ここまで来ると誰が味方で誰が敵か分かったもんじゃないっす」


愚妹灰荘はアーティ高等学校にいるとしぼれたものの、このホムズ女学園も敵に支配されているようだ。

言動には気をつけなければ。


「やはり愚妹灰荘は異常だよ。女子高生と頭脳勝負するだけなのに手が混みすぎてる……どれだけの人を巻き込んでるのさ」


「名探偵の穂花ちゃんでも灰荘の心理は分からないんすか?」


「うん。あれはクラスメイトを閉じ込めてデスゲームをさせるような人種だよ。分かってたまるかってんだい」


文章でも度々感じていたが愚妹灰荘という推理小説家は少しズレている。

人間味を演じているような気味悪さがあるのだ。予想は立てているものの霧のように掴みづらい。


「とにかくその封筒の中身を確認してみないっすか?」


「うん、そうだね」


まずは封筒の外見を確認、シールだとか臭いでのヒントは無さそう。

開いて中からA4用紙が出てきた。



───────────────────


 聞こえたのは女の声。

 水田にて血をすする異質、見下し嫌った。

 さようならはじまりの島。


 我らの怒りを鎮めたければ救世主に祈りを捧げよ名探偵。


───────────────────



「……ふむ、もう少し綺麗な例えはなかったものか」





秋元(あきもと)先生〔♀〕

 体育教師であり穂花の担任

 誕生日/10月19日=天秤座=

 血液型/A型 髪型/ベリーショート黒髪

 身長/164cm 体重/48kg

 性格/男勝り

 年齢・27歳

 好き/スポーツジム.イカの塩辛

 嫌い/雨.満員電車

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