4/5
●森屋穂花
「どうした?穂花」
キョトンとしているにぃにの耳にティッシュを詰め込んで耳栓にする。
それだけじゃ聞こえちゃうから両手で塞がせた。
「ここからは子供には悪影響なのでおとなしく──ぷふっ」
左手で顔を掴まれる。
顔が潰されてタコクチに。ぶうー。
「なら耳を塞ぐのは穂花の方だ。それに前にも過激な内容の推理ゲームはあっただろ」
そう言われると、楽器店の中学生・四奈メアの作品では浮気がテーマとして扱われていた。
推理小説はどんなジャンルよりも人間の欲が描かれているものだ。
「後悔しない?もう普通の生活には戻れないかもしれないよ」
「なにそれ怖いん」
苦笑いのにぃに。
笑い事では無いのだ。この作品のせいで新しい扉を開いてしまうような変化があってもおかしくないんだよ。人生をダメにした先人が沢山いるんだとか。
「それで探偵ちゃん、事件の詳細を聞かせてもらおうかしラ……あ、いえ、聞かせていただけますカ?」
役になりきるのを忘れていたメイド・エリザベス。
「うん、君が考えてる結末は見えたよ。でも、もう少し話を聞きたい。姫様のケガはなにで付けられたのかな?」
「刃物ですガ」
「じゃあエリザベスは?」
「……分かりませン、首裏を殴られて気絶させられていましたから」
「姫様やドレスを破るのには刃物を使って、エリザベスさんには鈍器で気絶させた、と」
「だから?」と言いそうな顔をしているにぃにだが口元に人差し指を置いて黙らせる。
それから1枚の紙、いや手紙を渡す。
「にぃに、化粧室のゴミ箱から見つかったこの手紙から推理出来る事は?」
「姫様が別の男を好きになったから悩んでた」
「うん、仮に姫専属騎士・シャルルが相手だとしよう。そのことを婚約者である王子・レオルドが知ってしまったら」
「嫉妬、するだろうな」
同盟の為、国同士が勝手に決めたであろう婚約者にそこまでの情があるかは分からないが男としてのプライドは傷つくだろう。
さて、そこで容疑者の整理だ。
「ではワトスン君、この中でアリバイがある人物を選びたまえ」
「そうだな。第二王子・エルビィは完璧なアリバイがある、ユニールの国王の接待と結婚式の準備をしていたなら目撃者も多いだろ。それに結婚式で警備が強化されている状態で城の前にいたシャルルも騎士の誰かに目撃されているはずだ」
シャルルに関して少し付け足す、結婚式を邪魔したいのなら幼馴染の姫様ではなく結婚相手であるレオルドの命を狙うと思われる。
「その通り、残りはふたり。ここまで来ればどちらが怪しいかなんて考えるまでもないよね?」
第一王子・レオルドと馬番・マルク。
彼らだけアリバイが無い。しかもただの召使いであるルイスは城の中に入れてもらえないとするなら。
「犯人はレオルドか」
「うん、このままじゃそうなってしまうね」
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
推理小説家エリザベスの口元がピクリとうずいた。
勝ちを確信しているのであろう。
「じゃア、犯人はレオルド第一王子なのネ?それが結論」
「まあ勝利を急がないでもらおうか。君にはまだ聞きたいことがあるんだよ」
「聞きたいこト?」
次は手紙をエリザベスに渡す。
引っかかる言葉を指差して。
───────────────────
数日のうちに記憶喪失にでもなってくれれば喜ばしいのですが。
───────────────────
「なにが変だって言うノ?失恋の苦しさを表してるんじゃなイ」
「いいや、ホノが言っているのはこの【数日】という単語だよ。結婚式当日に捨てた手紙にしてはおかしくないかな?それにわざわざ化粧室で処分してる」
姫様が手紙を用意しておいて故意に捨てたようにしか思えない。
「答えは簡単ヨ。レオルドが数日前にこの手紙を見つけたノ、それで問い詰めるために化粧室に行き姫様を襲っタ。その後ゴミ箱にポイっと。あーらンこれしかないワっ!」
「自分が犯人だと言う証拠を置いてくほどレオルドはマヌケなのかな?」
そんなミスをするような人物が【王にふさわしい】なんて笑えてしまう。
HAHAHA、ちゃんちゃらおかしいね。
エリザベスはホノに勝たせる気が無いようだから単刀直入に言ってしまおう。
「まずレオルドは城の中にはいなかった」
「じゃあどこにいたって言うのヨ?」
「『庭の蝶』。彼の想い人である馬番のマルクと最後の時間を過ごしていたんじゃないかな」
「──ん?」
首を傾げるにぃに。
大丈夫だ、真剣に聞くと普通の人は混乱しちゃうから『へえ』みたいな感じで聞いてくれれば良い。
「手紙を書いたのは姫様じゃなくて第一王子・レオルドだよね」
黙ってしまうエリザベス。
筋書きはこうだ。
愛馬であるルビーと仲良く話しているドラコ王国の召使い・マルクを見かけ興味を持ったのだろう。
ある日から話すようになり恋心を抱く。
しかし第一王子と召使い、叶うわけがない身分の壁。
手紙でも書かれていたように諦めようとしていた。
男性同士どうこうは気にしない、ある業界では当然なのだから。そういう世界線なのだ。
特にマルクの設定を見てほしい。
───────────────────
【馬番・マルク】
茶髪茶目、目が隠れるくらい長い前髪とそばかす、ドラコ王国の召使い兼馬番。動物と話せるらしく変人扱いされている、レオルドの愛馬・ルビーとは親友なのだとか。
一人称・ボク
ジャンル・ヘタレ系
イケメンレベル・☆☆(凡)
───────────────────
ほら、なんだかBLゲームに出てくる冴えない主人公と言われたら納得出来る。なんせ動物と話せるんだもの。
それに容疑がかけられた時、言葉が悪くてもエルビィとシャルルも微塵も疑ってなかったのだ。
少なからず交流があり信頼を勝ち得ていた。
「でもおかしいね、そうなると容疑者4人ともアリバイがあることになってしまう」
「そうヨ、だからレオルドしか」
「この事件の真相が【姫様の自演】だとしたらどうだろうか?」
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
姫様の自演、その推理にエリザベスが固まる。
「……探偵ちゃん。どうしてそう思うノ?」
「君が気絶していたのは本当だろう、なら残るのはひとりしかいないでしょ」
姫様がエリザベスを殴りつけたか、計画を知っていて協力関係にあったのか。
メイドを気絶させてから姫様はドレスと手紙をハサミでズタズタにし、自分にも傷を負わせた。
「でも、姫様がそんなことする理由がどこにあるって言うのヨっ!」
悔しいからかクネクネ踊りながら駄々をこねてハンカチを「むぎぃーっ!」と噛み付く。
「そこだよね。理由については推理しづらい。そもそも証拠を用意して無いでしょ?勝たせる気がなかったのかな」
「──うグっ」
「でも考えるならふたつルートがある。手紙を見つけた姫様がこの事件を起こした理由。裏切ったレオルドに復讐したかったから。または彼女なりの考えでレオルドを犯罪者にして身分を剥奪しようとした」
バッドエンドが多い推理小説、どうか後者だと嬉しいな。
これを聞いたエリザベスはぎょっと目を丸めてから、大声で笑い出した。
「うふふンっ。イジワルってくらい証拠を出してないのにそこまで推理出来ちゃうなんて凄いわネ探偵ちゃん。もうっ認めるしかないじゃなイ。わたシの負けヨ……残念だワ」
「それで、どっちなのかな?」
「わたシの妄想では、後者。姫様は手紙を見つけてレオルドとマルクの恋を応援したいと思ったノ。だからこの事件を起こして疑われたレオルドは逮捕。そこで姫様は脱獄を持ちかけるのヨ。『前科持ちの王子になるか、愛するマルクと国外へ逃亡して幸せになるか』ってネ」
なにそれ姫様かっこよ。
少し力技過ぎる気もするけども。
しかもそこから妄想が広がるのが良い。
間違いなくレオルドはマルクと逃亡を選び、恋のキューピットである愛馬・ルビーに乗って走り出すのだ。
変わりに弟のエルビィがドラコ国王になり、姫様はシャルルが守り続ける。うむ、誰も不幸にならないエピローグ。
ぱちぱちっ。
思わず手を叩いてしまう。
「……でモ勝てると思ったのだけド、まさか探偵ちゃんに腐の知識があるなんてネ」
「ふふん、名探偵というのはどんなことでも知っていないといかんのだよ」
「そうよネっ!オンナとカマは少しくらい腐ってなきゃ面白くないわヨ!」
「ち、違うもん」
エリザベスに肩をぽんっと叩かれた。
決してそちらに興味があるわけじゃない、ちょっとだけ知識がある程度である。
ホノは沼にハマるつもりは無い。
静かになっていたにぃにはというとティッシュを耳につめてバーカウンターにてウーロン茶を飲んでいた。
遠い目をしながら原稿用紙を使い折り紙。おぞましい生物カメレオン 。
今回はにぃににトラウマを植え付けてしまったかもしれない、おのれ灰荘。
エリザベス〔♂〕
バーのママであり心優しきお髭女子
誕生日/8月3日=獅子座=
血液型/B型 髪/服装によって変わる
身長/183cm 体重/88kg
性格/姉御肌
年齢/34歳
好き/お酒.コスプレ.丸い男性
嫌い/ぶりっ子
得意ジャンル:BLミステリー
【出版】『事件の影にオカマあり』
業界の大物ばかり通っているオカマバーを営むママ・MIKAKO。
お客が殺害された事件の事情聴取に現れたのはベテランのぽっちゃり刑事。
MIKAKOずっきゅん。
「この事件は私が解いたげる!そしてあの刑事さんの心もいただくわっ!」
すべては愛のためオカマ探偵が立ち上がる。常連のコネを使って情報収集。
相棒はイケメン新米刑事?見たことない凸凹コンビ爆誕!
笑いあり涙あり、事件の影にオカマあり。