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3/5

●森屋穂花



 バー・プリシラ号。

映画に感化された名前で外観はバスそのものだけど改造された店内は色っぽい大人なバー。


そこのママであるオネェ系・エリザベス。

ムダ毛はほぼ処理されているが髭だけがガッツリ生えている。

赤いドレスで脚と腹筋が目に入ってしまう。

にぃにも目のやり場に困るくらい、なんだか危うい。

でも優しい人だということはすぐに分かった。


そんな人物からの推理ゲーム。

店内に置かれているビリアード台の上にお城と人間のミニチュアと分厚い原稿用紙。

書かれているのはほぼ世界観の設定とキャラクター説明。


世界観の説明するなら中世ヨーロッパとファンタジーを混ぜたようなポップな雰囲気。

ファンタジーと言っても魔法があるわけではない。モンスターの類はいるようだけど推理には関係しない作者の妄想なので気にしなくていいとのこと。



───────────────────


 ユニール王国の姫様とドラコ王国の第一王子様の結婚式、当日。姫様が何者かの奇襲に遭い負傷(命に別状はないようだが意識不明なのだとか)。


 容疑者4名。


───────────────────


【ドラコ王国第一王子・レオルド】。

 黒髪紅瞳、とても優しく剣技にも長けている。ユニール王国の姫様を妃にした後はドラコ王国で王位継承の儀が行われる予定。彼以上に王にふさわしい人物はいないだろう。

 一人称・私

 ジャンル・セクシー系

 イケメンレベル・☆☆☆☆☆(5段階評価中)


───────────────────


【ドラコ王国第二王子・エルビィ】

 白髪蒼瞳、メガネ男子、レオルドとは異母兄弟、自分や他人に厳しく堅物として知られている。レオルドのことは尊敬しているものの『彼の優しさが国を滅ぼす』と考えている。

 一人称・僕

 ジャンル・ツンデレ系

 イケメンレベル・☆☆☆☆☆


───────────────────


【姫様の直属騎士・シャルル】

 金髪緑瞳、世界最強の騎士、ユニール王国姫様とは幼馴染でありずっと側に仕えて守ってきた。とても明るい性格だが声が大きいのがたまにキズ(国民からは「しゃべらなければ完璧な男」とよばれている)。

 一人称・俺

 ジャンル・ムードメーカー系

 イケメンレベル・☆☆☆☆


───────────────────


【馬番・マルク】

 茶髪茶目、目が隠れるくらい長い前髪とそばかす、ドラコ王国の召使い兼馬番。動物と話せるらしく変人扱いされている、レオルドの愛馬・ルビーとは親友なのだとか。

 一人称・ボク

 ジャンル・ヘタレ系

 イケメンレベル・☆☆(凡)


───────────────────



この容疑者っていうのはこのお城の前に並べられたミニチュア4体のことだろう、バラバラってことは犯行時刻にいた位置かもしれない。


姫様はお城の中にある化粧室で襲われたとある。1番近いのは第一王子・レオルド、それからは騎士・シャルル、第二王子・エルビィ、馬番・マルクの順。


「乙女ゲームの説明欄を読んでる気分になるな」


隣で一緒に読んでいたにぃにが苦笑い混じりにそう言った。たしかにその通りである。


推理小説なのにキャラクター設定がキラキラしている。

イケメンレベルがなんなのかよく分からないけど。

おそらく姫様が攻略する男達なのだろう、平凡そうに思える馬番だって前髪を上げたら美少年に違いないよ。それか行方不明とされている別の国の王子だね。


「姫様に好意を持ってそうな騎士のシャルルとか怪しそうじゃないか、結婚を邪魔するためとか」


「うーん、それなら……まあ、証拠が少ないからまだなんとも言えないね」


ホノとにぃにが証拠不足を訴えるために推理小説家エリザベスに視線を向けると一瞬だけギョッとしてしまった。


いつのまにか赤のドレスではなく別の服に着替えていたのだ。



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



 ボクサーのようにガタイのいいオネェ系であるエリザベスはピンクのメイド服で立っていた。


推理ゲームに夢中になっていたとしても近くで着替えをしている人物がいれば気付くと思うのだが……目にも留まらぬ早ワザだったのかもしれない。


「えっと、どうしたのかな?」


「うふン、わたシはユニール王国のメイド・エリザベスでごさいまス。なんなりとお聞きくださいまセ」


ずいぶんと野太い声のメイドさんである。


しかし、エリザベス自身も登場人物ということだろう。美術館での推理ゲームと同じようにそのキャラクターが知っていることしか教えてくれない。


「姫様は大丈夫?」


「はい、傷は浅いので1週間ほど安静にしていれば塞がると思われまス」


「メイドさんは事件が起きた時はどこにいたのかな?」


「側にお仕えしておりましタ。しかシ何者かに気絶させられてしまっテ……クッ、わたシはなんて無能なメイドなのでしょウっ!」


こんな屈強な人物を気絶させられるなんてどれだけ強い人物なんだろうか。

それとも物語の設定では華奢な女の子か。


嘘泣きだと分かるほど大袈裟に演技するエリザベス。

それから奇襲されてついたアザを見せてくれた、メイク道具で書いたようだがいつの間に。

首裏を叩かれたようなアザ。


「それでこのミニチュアの配置は事件が起きた時ってこと?」


「はい。ですがご本人方の証言のみですのデ、必ずしも正しいとは言えませン」


そうなると全て疑った方が良いか。


それぞれの証言を読んでいこう。



───────────────────


 馬番「ボクは馬小屋で仕事をしていました」

 第二王子「ふふ、コイツはただの召使いだ。城に入れるわけがないだろ」

 第一王子「エルビィ、言葉を慎みなさい」

 専属騎士「でも大事な結婚式ってことで警備はいつも以上に厳しい。馬番君が入るのは不可能だぜ」


 マルクの証言・馬小屋


───────────────────


 専属騎士「俺は城の前で警備をしていた、特に怪しいやつは来なかったぜ」

 第二王子「専属騎士の貴様が何故姫様の側にいない?不自然じゃないか」

 専属騎士「そいつは俺に化粧室で着替えてる姫様をじっくり見てても良いって言ってるのか?」

 第二王子「なっ!……違う。化粧室前で警備していれば良いだろ」


 シャルルの証言・城の扉前


───────────────────


 第二王子「僕は結婚式の準備と料理の味見だ。後は自由人の兄がどこかに消えてしまったのでな、ユニールの国王のご機嫌取りと言ったところか」

 専属騎士「おいおい、主役がどこ行ってたんだよ?」

 第一王子「はは、すみません。あまりにも天気が良いものですからお庭で蝶と戯れていました。しかしこんなことになるなんて」

 馬番「……」


 エルビィ・結婚式会場

 レオルド・お城の庭


───────────────────



怪しい人物は数人いる、でもこれといった証拠がまだ見当たらない。


「姫様が襲われた化粧室の状況を見ても良いかな?」


ホノがそう言うとピクリッとエリザベスの表情が曇った、探られては嫌なのか。

メイドとしての反応か、それとも推理小説家としての反応か。


新しい原稿用紙が用意されて渡してくれる。



───────────────────


 荒らされた化粧室、使い物にならないボロボロなドレス、床に落ちた血痕、ゴミ箱の中では紙がビリビリに破られている。


───────────────────



……破られた紙。

原稿用紙は他に無い。


となるとこのバーにあるゴミ箱の中か。


見渡せばバーカウンターの上に小さなゴミ箱。

トタタッと駆け寄って漁る。


「穂花……なにやろうとしてるんだ?」


「ガーボロジーだよ」


【ガーボロジー】。

ごみを分析して推理に役立てる調査方法である。

シュレッターにかけられた手紙などをテープで貼り付けたり、捨てたものでどんな生活をしているか推理する技法。


シュレッターで処分されていたら時間がかかるが設定された世界観にはハサミしかないようだ。

破られた紙をテープで直していく。



───────────────────


  婚約者がいるというのに叶わぬ恋をしてしまった。


 結婚の相手ももちろん素晴らしい方、傷付けたくは無い。

 しかし、もしも許されるのなら全てを捨て去り彼と共にこの広い世界を駆け巡りたいと思うのです。


 なに、分かっていますとも。

 それは夢物語であります、だから文としてこの気持ちを封印し捨ててしまうことにいたしました。


 数日のうちに記憶喪失にでもなってくれれば喜ばしいのですが。


───────────────────



それは読まれてはいけない禁断の恋の手紙。

姫様がレオルド以外の攻略相手を想い書いた……いや、そういうことか。


「うん、解けた」


「あらン」


推理と言うよりも一風変わった恋愛小説の妄想を膨らませている気分を味わう。



作者(はんにん)の気持ちになれば作品(じけん)の最後はおのずと解る」



……しかしこの推理小説、にぃにに悪影響ではないだろうか。

耳を塞いでやろうか。

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