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●森屋帝一
オトナの階段通り。
表現するならピンク。建物の色とかでは無くオーラが。
ホテルばかりで、デザインがそれぞれ違う。
アメコミみたいな絵柄やお城みたいなとか、明らかにそれな。
まだ昼頃だから人通りが少ないことのみが救いだ。
いるとしてもホストやキャバ嬢。
ただ興味深そうにこちらを見てくるから困る。学生の男女がいれば当たり前だけど。
僕たちの知り合いがこの通りにいるとは考えにくいけど早く目的地点である【オカマバー】に行って落ち着きたい。
それにしても海兎はなにを考えているんだ。
僕らは未成年だぞ、穂花が変なことを覚えたらどうしてくれる。
「まだ見つからないか?」
「にぃにが目隠ししてるからなんにも見えない」
確かに両手で視界を塞がれているけど君ならなんとか出来るはずだ名探偵。
子供にはまだ早い。お兄ちゃんとして『サンタさんの存在』や『コウノトリが子供を運んでくる』というファンタジーを守る義務がある。
「……にぃにから見て、それっぽいお店はあるかな?」
ならお前が見つけろ、と。
「そんなこと言われても似たような建物ばかりだから……改造してお店みたいになってるでっかいバスくらいだな」
「店名は?」
「バー・プリシラ号」
間違いなくここである。
シルバーの巨大なバス、窓は閉められていて中は見えない。上には派手な服装をしたマネキン。
どう考えてもあの映画の影響を受けているであろうデザイン。
穂花を目隠ししながら店内に入った、外見はバスそのものだったけど中身はちゃんとしたオシャレなバー。
カフェ・グレコと比べて暗くて色っぽい。黒と赤がベースにデザインされている。
日本酒、ビール、ワイン、ウイスキー、ジン、ウォッカ、ラム、ベルモット、リキュールなどなど。
ずらっと並んでいるもののお酒の知識は乏しい。
父さんはビールならどんな銘柄でも喜んで飲むし、母さんはワインの話になると推理小説批判並に面倒くさいから聞かないようにしている。
そもそもお酒は二十歳になってから。
見渡した限り強烈なものはひとりしかいないから穂花の目隠しを外す。
「はじめましテ、探偵ちゃん達。わたシはエリザベス。どうぞ座ってん、お話をしましょうヨ」
バーカウンターに立つ人物、きらめいた赤いドレスを着た……ボクシング選手くらいガタイのいい欧州系男性で立派なアゴ髭もたくわえている。
でも身体の無駄毛は全て処理済み、たくましい胸筋が目に入ってしまう。
こう言ってはなんだがアドリエッタがどれだけレベルの高い女装っ娘だったか思い知らされるな。
エリザベスがリモコンらしきものをポチッと押すと入り口からロックがかかる音。
閉じ込められた。
仕方ないからバーカウンターに向かう。
「森屋穂花だよ。よろしく」
「可愛い探偵ちゃんだこと、肌の白さったら羨ましいっ!ウーロン茶で良いかしラ?そちらのイケメンくんの名前も」
「兄の帝一だ」
僕が名乗ると一瞬動きを止めるエリザベス、推理小説家なら反応するなって方が難しいか。
でも『あ』じゃなくて『や』だからね。しかも伸ばし棒の場所が違う。
「うふン、肩の力を抜いて良いのヨ。わたシはイケメンよりも丸いおじさんとかがタイプだかラ。取って食ったりしないワ」
別に怯えてなんかいない。
偏見はないつもりだ。
「イケメンは観賞用で良いノ。手に入らないものに短い人生を使っちゃダメ」
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
コトンッと僕達の前にカクテルグラスに入ったウーロン茶が置かれた。
すぐに推理ゲームが行われると思っていた穂花は瞳をパチクリさせてエリザベスを見る。
するとにこりと笑い。
「探偵ちゃん、わたシから提案があるのだけど聞いてくれル?」
「うむ、なにかな」
エリザベスは棚から布をかかった物体を持ってきた。
手品でも始まるのかとも思ったけどどうやら違う。
布を外すと出てきたのは、監視カメラや盗聴器。それもかなりの数。
「これはわたシの店に仕掛けられたものヨ。灰荘先生は推理ゲームをどこかで監視しているノ。安心しテ、全て外したからここは安全ヨ」
「……カメラがあるような気はしてたけど、どうして灰荘側の君がそんなことを教えるのかな?」
穂花の疑問は正しい。
エリザベスの行動は理解出来ない。
「気に入らないからに決まっているじゃなイっ!わたシ達のプライドをかけた戦いを見世物にするなんテ。ベストセラー作家でもやって良いことと悪いことがあるワ」
むむっ、ずいぶんな言われようだな。
君達の実力を測るためだし、その録画映像がなきゃ他の弟子達にも実力を分かってもらえないだろ。
それに穂花が負けた時の記念に出来ないじゃないか。リプレイして楽しく見るんだい。
「提案っていうのはネ、あなタみたいな可愛い学生ちゃんがこんな奴に立ち向かったらいけなイ。推理小説家たちを使って女の子をいじめるなんテ」
「君は灰荘に会ったことがあるの?」
「ないワ。でもうさちゃん……わたシをスカウトしてくれたボーイから聞く限り恐ろしい方ヨ。人格破綻者と言ってもいイ」
ええっと。普通に傷付くんだけど。
海兎はどんなエピソードを話したんだ。
出会った時のことならもう水に流して欲しい。
「だから辞めるノ探偵ちゃん、この推理ゲームはあなタを苦しめるだけの娯楽でしかないかラ」
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
さて、どうする名探偵。
君が選べる最後のリタイア地点かもしれない。
大嫌いな推理小説家の挑戦から逃げ出すか、このまま勝ち続け正体を暴いて文句を言ってやるか。
僕はウーロン茶を喉に通して穂花の表情を読む。
「イケメンくんも妹ちゃんがこんなことさせられてるなんて我慢ならないでショ?」
「そりゃ心配だ。訳の分からない集団に狙われてるなんて常識的にありえないからな」
こちらに視線を向ける穂花。
ちょっとだけ自信なさげな顔になった。
「にぃにはやだ?」
「まあ嬉しくはない。妹が危険な目に遭うなんて遠慮したいさ」
「……なら」
「でも推理小説で穂花が負けるわけがないだろ。それに頼りないかもだけどなにかあったら僕が守るさ。やりたいようにすればいい」
ぽんっと左手を頭に乗っける。
兄の意見なんて気にするな、そんなことよりも探偵としてのプライドがどうしたいかだろ?
「うんっ!楽勝だよ。にぃにが信じてくれるならどこまでも行ける」
太陽のような満面の笑み。
やはり穂花はこうでなくちゃ。
ずずーっと鼻をかむ音。
エリザベスの方に視線を向けるとハンカチを片手に号泣していた。
「ぐすっ……良いワ!兄妹愛ネっ!もうすっごく良い。マツねぇを思い出すわネ。あ、マツねぇっていうのは昔働いてたお店のドラァグ・クイーンのママなんだけど素敵なオンナだったのヨ!……まあ男取り合って喧嘩別れしちゃったんだけド」
話が進むごとにマツねぇとやらの恨み節になっていく。
延々と語りそうだから僕達は「「コホンッ」」と咳をして水を刺した。
「歳を取ると昔話ばかりになっちゃウ、気をつけなキャ。結論やめなイってことネ?」
「うん、探偵は事件から逃げない」
「そう、応援したくなっちゃうわネ。でもなにがあるかわからないかラやっぱり怖いノ」
バーカウンターから出てくるエリザベス、店の奥に行くとカーテンで仕切られている場所。
カーテンをシャッと開けるとそこにはビリアード台。ミニチュアの事件現場。
それを見て、推理ゲームの用意はちゃんとしてくれたことに少し安心した。
「わたシの推理小説が解けなかったら探偵を辞めると約束しテ。これが最後」
「ふむ、分かったよ」
「それでわたシが負けたら」
穂花が首を振ってエリザベスの言葉を止める、
「なにもいらない。ホノはただの読書家だからね」
「うふン。じゃあ今からはカマではなク、推理小説家エリザベスとしてお相手するわネ」
優しい表情からキリッと。
まるで試合前のボクシング選手のように凛々しく切り替わった。
=バー・プリシラ号=
~メニュー表~
■ビール
『ビール・黒ビール』各600
『ノンアルコール』450
■日本酒
『日本酒・焼酎』各500
『サケティーニ』(日本酒とジン)550
『ラストサムライ』(米焼酎とチェリーブランデーとライムジュース)550
『薩摩小町』(芋焼酎とホワイトキュラソーとレモンジュース)550
『村雨』(麦焼酎とドランブイ)550
■ウイスキー
『ハイボール』500
『コーク・ジンジャーハイ』(ウイスキーとコーラ/ジンジャーエール)各550
『ケンタッキー』(ウイスキーとパイナップルジュース)550
『ラスティネイル』(ウイスキーとドランブル)600
『オールドファッション』(ウイスキーとアンゴステュラビターズ)600
■ワイン
『赤・白』各550
『ビアスプリッツァー』(白ワインとビール)600
『カーディナル』(赤ワインとクレームドカシス)600
『マティーニ』(ジンとドライベルモット)600
『ネグローニ』(スイートベルモットとジンとカンパリ)600
■ジン
『ジントニック』(ジンとトニックウォーター)500
『ギムレット』(ジンとライムジュース)500
『ジンバック』(ジンとジンジャーエールとレモンジュース)550
『ブルームーン』(ジンとクレームドバイオレットとレモンジュース)600
※『アレキサンダー』(ジンと生クリームとクレームドカカオ)800
■ウォッカ
『ソルティドック』(ウォッカとグレープフルーツジュース)500
『バラライカ』(ウォッカとホワイトキュラソーとレモンジュース)600
『ブラッディメアリー』(ウォッカとトマトジュース)600
※『スクリュードライバー』(ウォッカとオレンジジュース)800
※『ホワイトルシアン』(ウォッカとコーヒーリキュールと生クリーム)800
■ラム
『ダイキリ』(ラムとライムジュース)500
『キューバリバー』(ラムとライムジュースとコーラ)550
『ラムスパイスティー』(ラムとジンジャーエールとアイスティー)550
『ブルーハワイ』(ラムとブルーキュラソーとパイナップルジュースとレモンジュース)600
『エッグノッグ』【ホット】(ラムとブランデーとミルクと卵黄とシュガーシロップ)650
■テキーラ
『テキーラサンライズ』(テキーラとオレンジジュースとグレナデンシロップ)600
『モッキンバード』(テキーラとペパーミントグリーンとライムジュース)600
『マルガリータ』(テキーラとホワイトキュラソーとライムジュース)600
『エルディアブロ』(テキーラとクレームドカシスとジンジャーエール)600
■リキュール
『カンパリオレンジ』(カンパリとオレンジジュース)500
『ファジーネーブル』(ピーチリキュールとオレンジジュース)500
『カルーアミルク』(カルーアとミルク)600
『ゴッドファーザー・マザー』(アマレットとウイスキー/ウォッカ)各600
■ノンアルコール
『お茶・紅茶』各300
『レモネード』300
『シンデレラ』(オレンジジュースとパイナップルジュースとレモンジュース)300
『スプリングブロッサム』(青リンゴジュースとライムジュースとメロンシロップとソーダ)350
『炭酸系ジュース』各350
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