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●森屋穂花
「探偵物の定番な気はするんすけどSNS探偵のマシロちゃんが猫捜しするのが違和感があるっすね。掲示板を見る限り裏アカの特定とかじゃないすか」
「まあ、走り回るタイプの探偵には見えないけどSNSとは相性良いからね」
若者が猫を見つけたら写真を撮ってネットに上げることも多いだろう。
しかも依頼の迷い猫・ぽんず君の背中にはハートのガラがあるため話題性は間違いなくある。
「それより早く下りてきてもらおうか」
ホノが見上げると、高い木の頂上に登っている美玖ちゃん。
マシロとは違い、ちゃんとスカートの下に短パンを履いている。
けど木のささくれで肌を傷付けないか心配だ。
「猫はそこらじゅうにいるんすけどアメショは見当たらないっす。トラとかクロばっかすね」
ふざけてるだけかと思ったけどちゃんと捜してくれていた。
しかもかなり遠くまで見えているらしい。
(どれだけ視力が良いんだ)と思ったけど一眼レフカメラ越しから。
どの種類の猫がどこにいるか教えてくれる。
「とりあえず下りてきてっ!」
「了解っす。よっと」
ホノが呼ぶと木の枝をぴょんぴょんジャンプして地上に戻ってくる美玖ちゃん、この娘はお猿さんに育てられたのかな。
「まずは依頼主のお家に向かおうか」
「……家出しちゃったから捜してるんすよね?」
「猫の行動範囲は大体半径100メートル。家猫らしいから近くから探したほうが効率が良い」
美玖ちゃんが教えてくれたようにこの辺には野良猫が多いから縄張り意識が高いはずだ。
野良猫や人間に追い回されて遠くまで旅をしている可能性もあるけど……捜すのが難しくなるからあまり考えたくない。
「詳しいっすね。飼ってたんすか?」
「はは、叶わぬ夢さ」
なんだか遠い目をしてしまう。
犬や猫にはすごく興味がある。
特にジャーマン・シェパードを連れた名探偵とか渋すぎて憧れてしまうのだよ。
しかしうちにはハドソン夫人というおぞましいカメレオンがいて、にぃにが『犬猫の餌にされないでしょうか?』と怖がっているし。ママが犬アレルギー、パパが猫アレルギーと絶望的。
雑誌とかで気を紛らわせていたからそこそこ知識がある。
「美玖ちゃんは飼ってるの?」
「実家にはドーベルマンが3匹いるっすよ。でも怖くて触れなかったす。凶暴なんすよアイツら」
「ド、ドーベルマン」
細長くてカッコいい犬種ではあるけれど警戒心が強くて攻撃的になってしまう恐れがある。
飼い主が凶暴と言うのだから相当なんだろうな。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
マシュマロ様に依頼した飼い主・ゆずちゃんの家に行くも留守、窓も全て閉ざされていた。
その後、住所付近を30分ほど走り回るが見つけるのは野良猫ばかり。
猫に餌付けしていたおばあちゃんにぽんず君の写真を見せて尋ねてみたが首を振って「協力してあげたいけどウチには来てないよ」とのこと。
ホノは走りすぎて肩で息をしている。体力がかなりある美玖ちゃんはけろっと。
とりあえず休憩するために公園のブランコへ。
「いないっすねー」
「生き物の行動は物語と違って予測しづらいからね」
キィキィと、ブランコを揺らす。
「ザコ共、なに遊んでんの。負けを認めたってこと?」
ぎくりっ。威圧的な声。
公園の入り口からホノ達を睨んでいるツンデレ娘・阿達マシロ。
ツインテールを揺らしながら近づいてきて見下すように仁王立ち。
「お疲れ様っす!わっち等は休憩中すよ。マシロちゃんもどうっすか?」
間の抜けた美玖ちゃんの申し出に怒鳴るかと思ったけど「ふんっ」と鼻で笑って、そのままブランコに座る。
ホノ、美玖ちゃん、マシロの順でぶらぶら。
「どうなの。迷い猫はいた?」
むすっとしながら聞いてくる。
「いないから休憩してる。SNSには情報あったのかな?」
「まったくないからイライラする。ここら辺には老人しかいないわけ?ほんっと使えない」
バッと地面を蹴り上げて砂が舞う。
マシロの隣にいた美玖ちゃんがコホコホッと咳き込んで「やばいっす!砂が目と口に入ったす!」と暴れ出す。ブランコが揺れてガシャンッとホノにぶつかってきて危うく飛ばされそうになった。
いたあい。
「くー……で、でもひとつも情報がネットに上がってない時はどうするんすか?」
「お手上げ、出来ることは無い──わけないでしょ!私ならどうにか出来るしっ‼︎」
一瞬弱音を見せたがホノと視線が合うとぴょんっとブランコから飛び降りて怒鳴ってくる。
「ふんっ、どうせお花畑ザコはお手上げ」
「ねぇ、ぽんず君って家猫だよね?」
「……そうだけどなに?」
「たまに外に出てたのかな、それとも家から出たこともない?」
ホノが質問すると首を傾げたがスマホを取り出して調べ始めるマシロはコクリと頷き。
細かい情報を見せてくれる。
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アメリカンショートヘアとトラ猫のミックス。
友達の家から生後4ヶ月の頃にもらって以来家からは出たことがない。
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「猫の行動範囲は」ホノが言う。
「規則性がある」
「だけど飼い主の家は」
「窓が全部閉められていたわ」
「近所の目撃者がいないとくれば」
「……答えはひとつね」
ホノとマシロは不適に笑い合った。
相性は最悪だけど行き着いた答えは同じらしい。
「え?どういうことっすか?わっちにも教えて欲しいんすけど」
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
飼い主ゆずちゃんのお家の庭に3人の女子高生がお邪魔します。
留守だから不法侵入のようにも思ってしまう。それでもぽんず君を見つけるためだから許して欲しい。
「ぽんずくーん!どこかなー?」
「早く出てくるっす!君はもう包囲されてるっすよー!」
「にゃー、にゃー、にゃにゃー」
……ん?
ホノと美玖ちゃんが呼びかけていると、猫の鳴き声の真似をしているマシロ。
ギャップがありすぎて思考停止してしまった。
「にゃー……てっ見んなっ!探しなさいよ!」
顔が真っ赤。
声だけじゃなく両手を耳にして猫になりきろうとしている。
そんな奇行をされて無視しろってほうが難しいだろうが。
しばらくお家の周りを探してみたが見つからず。
ただし家の床下に入れる隙間があって覗き込む、ギラリと光るものが2つ。
目を凝らすとアメリカンショートヘアのオス・ぽんず君。
「あ、いたっ!」
と知らせると美玖ちゃんとマシロも駆け寄ってきて床下を覗く。
「誰が入るっすか?」
入り口はかなり狭いけど入れないこともない。
ただ間違いなく制服が汚れてしまうだろう。
「……ジャンケンで決めようよ」
「仕方ないからそうしてあげるわ」
各々ジャンケン前のジンクスを行なって深く息を吸う。
「「「最初はグー!ジャンケンぽんっ!ぽんっ!ぽんっ‼︎」」」
2回あいこだったが勝敗がついた。
ホノと美玖ちゃんはグー、マシロがチョキ。
「ふんっ、ザコが」
「負けたのは君だよ」
「ご愁傷様っす!」
カバンをバンッと投げつけられた。
制服の袖をまくり上げて床下へ潜っていくマシロ。
相変わらずスカートの丈が短いせいで、
「マシロちゃん、パンツ見えてるっす!」
「み、見んなし!きっっっも!」
見せられている、が正しい気がする。
今は女の子しかいないから構わないだろうけど兄・阿達ムクロはなにも言わないのだろうか。
「ぽんず。もう大丈夫だからこっち来なさい。家族に合わせて──痛っ」
手を伸ばした瞬間、ひっかかれて逃げられた。タタタタっと床下から出て走っていく。
「逃すかっ!」
飛びつこうとしたけどかすりもしない。
道路に飛び出していくぽんず君を追いかけていくホノ、猫の走りが早すぎるけど進行方向を予測出来ればなんとか追いつける。
……いや、捕まえる前に体力が底をつきそうだ。
「お花畑ザコ!私がこんなに汚れてやったんだから逃さないでよ!」
泥だらけになっているマシロも後ろに着いて走る。
「ホ、ホノだって体力に自信ある探偵じゃ無いのにっ!」
徐々にぽんず君との距離が遠くなっていく、このままでは見失う。
「もう、頼りない探偵さん達っすね」
風が横切ったような感覚を味わって、気付いたら美玖ちゃんが目の前に。
すたたたっ、リレー選手くらい早い。
すぐにぽんず君の真横まで辿り着き、ガシッと確保。
「穂花ちゃーん。マシロちゃーん。捕まえたっすよ!」
依頼達成、ではあるけど。
ホノとマシロのどちらが探偵として上かって勝負だったはずなのに美玖ちゃんが勝ってしまった。一応ホノのチームとして参加してるけど、
「……引き分けでいいよ」
「言葉に責任を持たなきゃ人間としてザコでしょ?そっちの勝ちで良いし」
「いいや、引き分けだよ。このままじゃホノが納得出来ないから」
「は?ザコのくせに私の決定に文句あるっていうの?良いじゃない学校で『ホノのにぃにの方がすごいんだー』ってバカみたいに自慢したら?」
「その言い方、負けって認めてないじゃんっ!」
バチバチッと睨み合い。
やはりこんな傲慢な娘と気が合うとは思えないよ。
「はあ、子供っすね」
「ニャー」
美玖ちゃんと抱きかかえられたぽんず君が呆れたような視線を向けてくる。
どちらの兄が優れているかは、また今度になりそうだ。




