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●森屋帝一



 次の推理ゲームの舞台は【映画館】だそうだ。


穂花が『ついでに映画を観たい』と言うものだからコンビニでお金を下ろす。兄妹の共有お小遣い口座。高校生になったのだから分けて欲しい。


他には家族の食事代口座があり、僕が管理。

愚昧灰荘口座は母さんに預けている。

正体を隠して生活している理由のひとつはそれだ。高校生が莫大なお金を持っていると知られたら危ないことに巻き込まれてしまうのは想像に難くない。


コンビニを出て映画館へ向かう。


「……それにしても映画代高すぎないか?」


日本の映画代1800円、海外のほぼ2倍だ。

これじゃ映画離れしてしまうのも分かる。


「そういえば上映中にスマホをいじる若者が増えてるんだって」


「ひえー、よくそんな奇行できるな」


「2時間も集中出来ないらしい、信じられないよ」


思わず鳥肌が立ってしまった。

大金払っている観客の横でそんな迷惑行為してみろ、間違いなく殺意を抱かれてしまうぞ。

サスペンスの動機になりかねないのでどうか館内から出てからスマホをいじって下さい。


「で、今日はなにを観たいんだ?」


「瑠璃色の瞳、かな」


よりによって。

自分の原作映画を観に行くなんてむず痒い。


だけど観賞会に顔を出していないから1回は観て監督に感想を送りたいと考えてたから良い機会か。

持つべきものはミステリー好きな可愛い妹だな。



「ねえ、にぃに」


「ん?」



袖を引かれて立ち止まる。

穂花が指をさしているほうに視線を向けると、映画館の前にある大きな蜘蛛の石像。

その近くに怪しい2人組。


サングラス、マスクをした怪しさ満点な男性。石像の前で仁王立ち。


ホムズ女学園の制服を着てスマホをいじっている女子高生。

スカートの丈がかなり短くてツインテールの髪。

表現するならツンデレタイプ。


「あの人達がどうかしたか?」


「多分男性の方、俳優の阿達ムクロだよ」


いやいや、イケメン俳優さんがこんな場所にいるわけないじゃありませんか。

あんな風貌をしていたら余計怪しまれるし、学校に来てない奴がこんなところで遊んでるとか生徒会長として怒らなければならないわけで……。


でもブランドの服、腕時計、財布を装備しているから一般人でないことくらいすぐに分かってしまう。後はスタイルと特徴的な天然パーマか。

髪型だけで誰か分かってしまうインパクトがある、どうしてニット帽とかで隠そうとしないのか。


「……気にせず映画館に入るぞ」


「え?あ、うん。でも灰荘の弟子かも」


それはない。

あの男は完璧を追い求めて誰よりも高みにいたいと思っている。

そんな奴が僕の弟子になりたいなんて思うものか。


見つかると面倒だから穂花の腕を引いて小走りで進んでいく。



「やあ、生徒会長じゃあないかい。これは奇遇だね……おっと、デートの最中だったかな?」



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



 あーあ、まったく。

隻腕が選んだ2人目の弟子候補との推理ゲームに急ぎたいところだが。

呼ばれてしまっては無視も出来ないから近寄る。


ザルな変装をしているイケメン俳優・阿達ムクロ。

黒に近いグレーの髪で天然パーマ、左目真下のホクロが色っぽい。


「そちらの可愛い女の子とはどんな関係か聞きたいところだね」


「……妹の穂花だ」


「はじめまして」


「ふんっ」


穂花が礼儀正しく頭をペコリと下げると同時にムクロの横でスマホをいじっているツインテ女子高生が鼻で笑う。

人見知りモードに切り替わってしまったのか僕の後ろに隠れる穂花。


おうおう、ウチの妹になんか文句あるのかい小娘。


「すまない、こちらはぼくの妹のマシロ。ちょっと気が強いのがたまに傷なんだ」


「あにき、こんなザコ達を相手にすんなし!安く見られる」


阿達マシロ。

白に近いグレーのツインテール、兄とは逆の右目真下にホクロ。

やはり遺伝なのか妹の顔もモデルみたいに整っている。


「阿達、こんなところで遊んでいる時間があるなら学校に顔を出してくれ。みんな待ってるぞ」


「いやぁ、なかなか仕事が忙しくてね。今だってたまたま休憩時間が出来たからここにいるわけで。映画を見終わった観客の顔を見るのがぼくの趣味なんだよ」


だからって出口で待機とか、やばい奴ではなかろうか。

『ただしイケメンに限る』が通用するから困る。


「それでボディガード代わりに妹にも付き合ってもらってるんだ」


「べっ、別に好きであにきに付き合ってるわけじゃないし!」


ほらやっぱり、ツインテールキャラはぶりっ子かツンデレと相場が決まっているのだ。


それにしてもボディガード。

僕がマシロの身体を下から上へと隅々見ていると嫌な顔をされた。


「きっっっも」


「スカートの丈を伸ばしてやろうかミニスカ妹」


むかっとして思わず本音が出てしまった。

怒られるかと思いきやムクロはプルプル震えながら笑っている。


「ボディガードって君の妹が体育会系には見えないが」


「お前みたいなザコなら瞬殺だしっ!」


いちいちマウント取りたがるチワワだな。

穂花を見習って欲しい、セミみたいに背中にくっ付いてるんだぞ。可愛いだろ。


「ああ、実はマシロはこの街じゃ結構有名な探偵なんだよ」


「……探偵?」


切り替えが早い。

セミから探偵に変形して僕の横に立つ穂花。

背中につけていたホッカイロが急に取れた気分だ。


有名な探偵と言われても阿達マシロなんて名前は聞いたことがない。


また「ふんっ」と鼻で笑ってスマホの画面をこちらに見せてくれるマシロ。



───────────────────


 SNS探偵・マシュマロ様

 彼氏・友達の裏アカ、探し人の居場所、SNSでなんでも暴く名探偵!

 (注:犯罪目的の場合はご依頼を断っております)


───────────────────



キラキラしたアニメーションで目が痛くなりそうな掲示板。

探偵のコスプレをしたマショマロのゆるキャラが描いてある。


「てなわけで、妹と一緒にいると過激的なファンに合わなくて済むんだ」


「女子高生SNS探偵……面白そうだね。にぃに」


おい名探偵。ライバルを目の前にして目をキラキラさせるとは何事か。

でも確かに次の題材として話を聞きたい気もする。


「それはさておき、どうして声をかけたのか聞かせてもらおうか」


「ひどいなあ。同級生に話しかけるのに理由が必要だと言うのかい」


「ああ必要だ。僕は大人気俳優とは違って暇じゃないからな」


「……このザコなに言ってんの?」


首を傾げるマシロとくすっと笑うムクロ。

世の中には変わり者兄妹がいるものだな。


「いやあ、そうだよ。ぼくみたいに暇じゃあない生徒会長にあげたいものがあって呼び止めたのさ」


胸ポケットから2枚の紙。

ミステリー映画『瑠璃色の瞳』のチケット。


「はい、どうぞ」


「……くれるのか?」


「学校に顔を出せなくていつも迷惑かけている謝罪だと思って欲しい。妹さんと楽しんでくれたら嬉しいな」


あら、イケメン。ファンになってしまいそう。

おかげで3600円も浮くという天の恵。


「でもザコ。あにきと住む世界が違うってことは理解しなさいよ!同級生だからって調子に乗らないこと!」


「へい、分かってるでやんす。僕みたいな貧乏人がムクロ様と同じ空気を吸ってるだけでも大罪でげそ」


「そ、そこまで言ってないでしょ!」


ゴマすりすり。

ほら、穂花も一緒にすりなさい。

そしたら次回作のチケットもくれるかもしれないよ。


「にぃに、そろそろ」


「ああ、そうだな。ありがとな阿達。大事に使わせてもらう。君達も風邪を引く前に帰るんだぞ」


人見知りの穂花は限界に達したのかさっさと映画館に入って行く。

僕もチケットのお礼をして追いかけ、



「また学校で会おう、モリアーティ」



……だから『あ』じゃなくて『や』だし、伸ばし棒の位置が違う。

穂花がいた時は気を遣ってくれたが、昔から変えようとしない。


こんな時は僕もお返しとばかりにドヤ顔で呼んでやるのだ。



「学校でな、アダム」



そうして僕たちは推理ゲームの舞台へと向かっていく。

映画館の中で「あの娘ヤダっ!」と穂花の叫びが響いた。




阿達(あだち)ムクロ〔♂〕

 完璧を演じきるイケメン俳優

 誕生日/7月28日=獅子座=

 血液型/A型 髪/グレー(黒)の天パ

 身長/175cm 体重/63kg

 性格/平和主義

 学年/アーティ高等学校2年D組

 好き/映画館から出てくる観客の笑顔

 嫌い/閉所(恐怖症のため)


阿達マシロ〔♀〕

 ツンデレな女子高生SNS探偵

 誕生日/8月26日=乙女座=

 血液型/A型 髪/グレー(白)のツインテ

 身長/166cm 体重/45kg

 性格/ツンデレ

 学年/ホムズ女学園1年C組

 好き/ネットサーフィン.SNS

 嫌い/兄のストーカー

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