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4/5

●シリウス



 あー、クソッ。

なんでこんなことになってるんだ。


この俺様に勝負を挑んできた佳作作家。

……簡単に終わると思っていた。


推理小説家なら行くべき旅館?

俺様はラノベ作家だっつーの。

はじめからこんなおかしな旅館には泊まりたくなかったんだ。


推理小説なんて終わってるジャンルと一緒にしないでもらおうか。

今や異世界探偵の時代だ。

難しいトリックも犯人との駆け引きも魔法で解決してしまえば読者も退屈しない。


魔法使いの探偵とドラゴンの助手。

『異世界で俺は魔法探偵を始めたんだが依頼が来る前に解決してしまう件について』で大成功した俺様がソース。


なのにどうして、佳作作家なんかに追い詰められなくちゃいけないんだ。


場所は旅館のトイレ。

便器に座りながら渡された原稿用紙を睨む。

悩む姿を新人ラノベ作家である取り巻きに見られるわけにもいかない。



───────────────────


 夜19時、

 まるこげになった身元不明死体が発見された。

 場所は旅館の外。

 犯行時に旅館内にいなかったのは4人。


【サトウ君】

 メガネで気が弱そうな黒髪男性。

 16時、から誰も見てない。

【スズキさん】

 長い茶髪のギャルっぽい女性。

 風呂場から出てくるのを見た人が数人。

【タカハシ君】

 ガタイのいい金髪の男性。

 友人と卓球をしていた。

 元カノに呼び出されてから帰ってこない。

【タナカさん】

 短い黒髪の大人しそうな女性。

 部屋に入るのを仲居さんが確認している。

 サトウと同じ(206号室)に泊まっている。


 旅館の外で発見された焼死体。

【ジェーン・ドゥ】

 死亡時刻・16時頃。

 発見時刻・19時。

 死因・腹部に刺し傷。


 森の中で発見された焼死体。

【ジョン・ドゥ】

 死亡時刻・19時頃。

 発見時刻・20時。

 死因・頭部の打撲?。


【森の焼死体の隣には首を吊ったタカハシの遺体】

 身体中浅い切り傷がある。

 近くに私物は何も無い。

 死亡時刻・19時30分前後。

 発見時刻・20時。


【206号室で見つかった証拠品】

 血の付いた包丁。

 無料配布のライター。

 サトウの財布(金銭、身分証、女性と映っている写真、避妊具)。


【気になる点】

 206号室の窓を覗くと真下が

 焼死体発見現場。

 部屋がかなりガソリン臭いのと窓ブチが焦げている。


───────────────────



わけが分からない。

特にジェーンだとかジョンだとか、

ヒントなら簡単に教えろよ。


「っだが残念だったなぁ。佳作作家!俺様には文明の力。インターネットってものがあるんだわ!ググれば1発!ざまあ‼︎」


中指を立てて叫ぶ。

隣から水を流す音が聞こえたがどうでもいい。



───────────────────


検索【ジョン・ドゥ】。

 英語で『名無しの権兵衛(ごんべえ)

 身元不明死体に使うこともある。

 男性はジョン、女性はジェーン。


───────────────────



なるほど、性別か。

つまり旅館の焼死体は女、森の焼死体は男。

自殺したタカハシは男。


焼死体が見つかった真上、206号室を借りていたのはサトウとタナカ。

旅館の焼死体はタナカの可能性が高い。

そして森の焼死体は絶対にサトウだ。


残されるのは茶髪の女性スズキ。

犯人は……。


いや待て、どうしてタカハシは自殺をした?

それにスズキは風呂場にいたアリバイがある。

これはミスリード。陰気臭い推理小説家どもが好んで使う手。



「犯人はアイツだ」



答えは出た。

手を洗ってトイレから出て行く。

佳作作家が悔しがる顔が目に浮かぶ。



宴会場へ向かっていると仲居が横を過ぎ去った。


パサッ。畳まれたメモが落ちる。

しかし仲居はとたとたっと仕事に戻っていく。

呼び止めようともしたがこのメモ……まさか原稿用紙。



───────────────────


【仲居A】

  「そういえば自殺したっていうお客様って

 昨日女性と言い争いしてたわよね?」

【仲居B】

  「そうそう。私内容聞いちゃったんだけど

 ヨリを戻したいってしつこいかったのよ、

 女性の方は嫌がってたわ。

 『今の彼を愛してる』って」

【仲居A】

  「なにそれ、ほんと昼ドラじゃない」

【仲居B】

  「まあ見てる分には面白いけどね……

 ねえ、包丁の件はどうなったの?」

【仲居A】

  「探してみたけど1本も

 無くなってなかったそうよ」


───────────────────



タカハシが彼氏がいる女と言い争い。


ヨリを戻せないと知り、苛立ちから元カノを殺害。

その後、口封じのために恋敵も殺害。


我に帰えるとふたつの死体。

罪の意識に耐えきれず……自殺。


===================


〔スキル:叡知(えいち)の魔眼〕が発動したような気分だ。

全てが繋がる。


===================



「……ぷっ。くはっ、ははははははははっ!間違いない!俺様の天才的頭脳がそう言っているっ‼︎解けた解けた解けたぁぁぁあっ‼︎ざまあねぇなあ推理小説家(はんざいしゃ)っ‼︎」




●森屋帝一



 まさかトイレに住み着くつもりじゃなかろうか。

シリウス先生が退室してから30分は経っている。

君の取り巻きA、Bはボス猿がいなくなって嘘みたいに静かだよ。


それにしても中学生とは思えないドロドロした推理小説を作り上げるメアは流石だ。

穂花との推理ゲーム時よりも遥かに成長している。

ジャンル違いすぎて魔法探偵が逃げるのも仕方ない。


「どうかしら?」


さほど無い胸を張るメア。


「ヒントを与えすぎている以外は合格点だよ。荒い箇所もあるけど手直しすれば短編集のネタにはなると思う」


「……そ、そう」


口元がニヤッとする。

ドヤ顔するのか照れるのかどちらかにしてくれ。


「愚昧先生。弟子に殺された気分はどうだ?」


「まあ、利用されて殺されるよりはマシかな」


この推理ゲームの登場人物たち、誰かに似てないか。

メアから複雑そうな顔が返ってきた。



「ち、違うわっ!別にモデルなんていない。自意識過剰なんじゃないのっ⁉︎」



顔を真っ赤にさせて否定するメアだが、認めてしまいなさい。

即興小説でキャラ設定にまで手が回らなかっただけだよね。



 「犯人はタカハシで決まりだっ‼︎」



ダンッと勢いよく現れたのはツンツン赤髪、シリウス先生。

謎が解けたことを喜ぶ読者の顔をしている。

ここまで熱心に向き合ってくれるとは、俺様キャラだけど悪い人では無いかもしれない。

……いや、負けず嫌いなだけかな。


「あら、タナカじゃなくて良いのかしら?」



「はははっ!馬鹿にするな、焼死体は【タナカ】と【サトウ】だ。第1の被害者がどうやって犯罪を犯せる?そしてタナカは以前タカハシと恋仲にあった。復縁を頼まれたがタナカには彼氏(サトウ)がいたから断ったんだ……それが佳作作家、お前の事件の真相で間違いない」



うむ、その通り。


()()()()元カノのタナカと旅館で出会い、自分の思い通りにならないから殺意を覚え、()()()の包丁で206号室にいるタナカを殺害。

同室のサトウは頭を殴りつけ気絶させる。


タナカの遺体にガソリンをかけ火を付けて窓から落とす。

森の中で気絶しているサトウにもガソリンかけて燃やした。


その後、罪の意識が突然芽生えて自殺。


筋は通る、かな。

たまたまタナカと出会ったくせに包丁を持っているのは不思議。

ガタイのいいタカハシだったら素手でもどうにか出来そうだ。


まあ、気にするな。



「ええ、そう……負けたわシリウス先生」



悔しそうな顔を作る4番弟子、四奈メア。

唇を噛む。……こら、嬉しそうな顔をこっちに向けてくるな。

ちゃんと負け犬の演出しなさいよ。



「はははっ!佳作作家ごときが俺様に喧嘩を売るなんて1万2千年早いんだ!格が違うということだなあ⁉︎佳作でも取って喜んでろよ佳作作家‼︎」


「シリウス先生!すげぇ、流石は魔法探偵の生みの親!」


「大先生と才能ない佳作作家じゃ結果は最初から決まってましたけどねぇ!」



賞賛の嵐。

メアを侮辱してゲラゲラと嘲笑するシリウス先生と取り巻き。

傷付いてしまったのかメアは下を向いてプルプルと震えている。


耐えられなくなったようでギュッと僕の浴衣を掴んだ。

思わず僕も下を向いてプルプルしてしまう。



「いつでもかかってくれば良いさ、時代遅れの推理小説なんてつまんないと否定してやる!はははっ‼︎ば────か!」



(なんだか死亡フラグの塊みたいな人だなぁ)と思ったが空気を読んでお口チャック。



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



騒がしい人達が高笑いして出て行ったから静かになる宴会場。

僕たちだけ。


「……行った?」と周囲を確認しているメアに「ああ、もう我慢する必要はねぇ」と海兎。

それからメアはすーっと空気を胸いっぱいに吸って。



「あはははははっ!まあ200万部作家もこんなもんよね。あー、スッキリした!推理ラノベ作家は厨二臭い魔法詠唱でも考えていればいいのよ。ばーか」



けらけらと笑い声が響いた。

初めて読者を騙し通せたのだから嬉しくて堪らないのであろう。


「面白ぇくらい騙されてくれたじゃねぇか」


「作家として嬉しいかぎりだな。()()()さん」


「ええ!嬉しい……だ、だから違うわ!モデルなんていない」


全てはフィクション。

じゃなかったら僕たちはメアによって全滅させられていた。



サトウのサイフに入っていた【女性と映っている写真】の表現を曖昧(あいまい)にしたのは、そこに答えがあるからだ。



つまり恋人であるサトウの浮気を知った()()()は凶器を持ち、ふたりを尾行。

しかし浮気現場である旅館には元カレのタカハシがいた、口論になり仲居に見られてしまう。


206号室でサトウの浮気相手のタナカの腹部を刺し殺害。

ここでサトウを殴りつけ気絶。


そこでスズキはあることを考える。

タカハシに泣きついて協力してもらおうと。


スマホで呼び出したタカハシに、遺体(タナカ)を車のガソリンを使って燃やしてもらうよう頼む。

その間に自分はアリバイ作りと返り血を洗い流すために風呂場へ。

血のついた服だって浴衣に着替えて捨ててしまえばいい。


焼死体にしたのは死亡時刻を曖昧にさせるため。

体温も死斑(しはん)(死後、皮膚表面に現れる痣状の変化)も確かめられなくする。


そして焼死体(タナカ)が見つかったパニックを利用して旅館から気絶したサトウを車に乗せ森の中へ(焼殺に使ったのはタカハシの車のガソリン、移動に使うのはスズキの車とする)。


生きたままサトウを燃やし。

スズキは協力者のタカハシも口封じのために殺害した。

タカハシを犯人に仕立て上げて完成。



今回はまんまと真犯人(スズキ)は逃げ通せてしまったようだ。

メアと同じように高笑いしているに違いない。

『女って怖いな』ってオチ。


探偵が穂花だったらと考えてしまうが、首を振る。



「さて、もう遅いし部屋に戻るとしよう。206号室、殺人事件が起きた部屋だけど」


「中学生ギャル、批評家が喜ぶ推理小説もちゃんと考えておけよ」


そうだ、まだ美魔女の富子先生を喜ばせるという過酷な使命があるのだ。


「い、今のを書いちゃダメかしら?」


「だめ。プライドがあるなら同じ犯行はするな」


あわあわと震えますメアだが、なにを心配してるのやら。

シリウス先生を打ち倒した君を見て確信した。



「君が偉大な推理小説家になると信じている。だから執筆し続けろ、4番弟子四奈メア」


「──……っ」



顔を真っ赤にして固まってしまった。

怒らせるようなことでも言っただろうか。




シリウス〔♂〕

 魔法探偵200万部作家

 誕生日/2月9日=水瓶座=

 血液型/O型 髪/赤髪ツンツン

 身長/176cm 体重/57kg

 性格/お調子者

 学年/大学2年生

 好き/ライトノベル.声優

 嫌い/実写化映画(批評するため必ず見に行く)


 得意ジャンル:異世界ミステリー

【出版】『異世界で俺は魔法探偵を始めたんだが依頼が来る前に解決してしまう件について』

 私立探偵をしていた青年がひょんなことから異世界転生。

 剣と魔法、モンスターとダンジョン、探偵は余裕で生き抜くそうですよ?

 叛逆の(リベリオンヴァイス)白龍(ファフニール)に認められてしまい異世界でも探偵事務所を開くことに⁉︎

 しかも美少女…だと…。

  「我の眷属になったお前様にはこの謎を解く選択肢しかないのだ……でなければ喰ってしまうぞ?」

 やれやれ、もう探偵業はこりごりなのに。

 魔王に攫われたお姫様も、窃盗の疑いをかけられたケット・シーも、奴隷のダークエルフもこの推理力を使って助けてみせる!

 スキル:【塵芥から始め(ガーボロジー)る痕跡採集(・コレクター)】【追跡(トラッキング)】【欲望喰者(マーダー・イーター)】……あれ、俺チートなんだが?

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 重箱の隅をつつくべきではないのかもしれないけど、タカハシはスズキに大人しく殺されたの?タナカとサトウもあっさり殺せてるしスズキ強くない?その辺りの詳細もシリウス先生がちゃんと調べてれば…
[一言] 魔法探偵というノックスもヴァンダインも思いっきり無視っていくスタイルww
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