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●四奈メア



 頭が冷えてきて、とんでもないことをしたと反省。

でも仕方がなかったのよ、灰荘大先生の肩にぶつけておいて謝らないだけでも罪深いのに舌打ちをした不届きモノを許せるものか。



「佳作作家ごときが俺様に勝負を挑んでくるとは良い度胸だ!格の違いというものを見せてやる‼︎」



私たちが推理ゲームをすることになった途端、旅館の人達が場所を用意してくれた。


宴会会場。

中心の机で向かい合わせで座る。

私の隣には灰荘大先生と不良。

シリウス先生の隣には取り巻きAと取り巻きB。


何故だろう、私の方が強そうよ。

隣にチートキャラがいて全てが(かす)むわ。


ナルシストみたいな顔で赤髪ツンツンなメガネ。

灰荘大先生曰く、推理物ライトノベル作家シリウス先生。

200万部作家と聞かされた時は少し驚いたけれど……私の隣に座っている人物と比べたら。


愚昧灰荘大先生、累計4億5千万部の化け物作家。

なんだか部数が戦闘力みたいな扱いになっているような気がするが参考程度なものである。


「シリウス先生、貴方が推理ゲームの探偵役で良いかしら?」


すっと私が原稿用紙を手渡すとシリウス先生の顔が歪む。


「な、なるほど。推理ゲームだな」


「そう気を張らず大丈夫です。シリウス先生の作品はどちらかと言えば探偵主体の小説ですので犯罪者役は難しいかと」


ニコニコしながら敬語で話す灰荘大先生。不自然で逆に恐ろしい。

『難しい』という言葉が『君には出来ないだろ?』と聞こえてくるのが不思議だ。


「確かに俺様の作品は探偵が優秀すぎるからな!古臭くてつまらない犯罪小説とは格が違う!よく気付いた、名前を覚えてやる」


コイツ、偉そうに。

さあ灰荘大先生。ばばーんっ!と自己紹介してやりなさいっ!



()()()()()()()です」


「へ?」



ニッコリ、と訳の分からないことを口走る灰荘大先生。

真実を伝えれば全て丸くじゃ……そうだった。あの女探偵のせいで正体は隠さなきゃいけないのか。

こんなばかそうな男に教えたらバラされまくりそうね。


「そうか。ならそっちのガラの悪い方が」


「あん?手下Aに決まったんだろうが」


お願いだから、そのあほらしい会話をやめて。



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



 女探偵の時とは違い準備期間はもちろんなく、即興。

けれど負けるつもりは無い。


舞台はここ、クワノの宿。



「じゃあ始めましょうか。ラノベ作家(たんてい)さん」



───────────────────


 夜19時、

 まるこげになった身元不明死体が発見された。

 場所は旅館の外。


───────────────────



「……これだけか?これをどうやって推理しろと言うんだ。馬鹿にするなよ」


はいはい、イライラしないで欲しいわね。

まったく『短期は損気』という言葉を知らないのかしら。


「推理小説ってのはね調査から始まるのよ?探偵が動かないのに物語が進むわけがないでしょう」


挑発しすぎたのか殺気を込めた目で睨まれた。


「死体が見つかったら探偵ならどうするかしら」


「佳作作家ごときが俺様に指図か?警察に電話。それと旅館にいる客と仲居を全て集めてくれ。場所は……この宴会場だ!」


私が新しい原稿用紙を手渡そうとするとパシンッと力ずくで奪われた。



───────────────────


 20人ほどの人が集められた。

 旅館内にいないのは4人。


【サトウ君】

 メガネで気が弱そうな黒髪男性。

【スズキさん】

 長い茶髪のギャルっぽい女性。

【タカハシ君】

 ガタイの良い金髪の男性。

【タナカさん】

 短い黒髪の大人しそうな女性。


───────────────────



シリウス先生は嫌そうな顔をする、名前が雑すぎると言いたいのだろうけど文句あるのかしら?

覚えやすくて良いでしょうが。


「死体の身元を教えろ」


「状態が悪くてまだ警察も調べ終わってないようね。今出てる情報と言ったら……手下B、読んでくれる?」


「はいメア様!」


「オイコラ、中学生ギャル」


「黙りなさい、手下A」


私の言うことを聞いてくれる空の上の作家達。

別に楽しんでるわけじゃない、灰荘大先生の身元を守るためだ。


渡した原稿用紙を見ると灰荘大先生が明らかに目を丸めた。

ヒントを与えすぎだと。


でも、こうでもしないとフェアプレイじゃないのよ。

あの女探偵ならまだしも、こんなヘッポコじゃ。

話が先に進まない。



───────────────────


【ジェーン・ドゥ】

 死亡時刻・16時頃。

 発見時刻・19時。

 死因・腹部に刺し傷。


───────────────────



序盤ではありえない大ヒントを出したのにキョトンとしているのだから笑えない。


「な、なら。現在宴会場にいない4人は死亡時刻にアリバイはあるのか?」


「手下A、はいこれ」


「チッ」


舌打ちしてくる不良。


そんな怖い顔しないでよ。

屈辱だろうけど灰荘大先生の為だと思って我慢して欲しい。



───────────────────


【サトウ君】

 16時、から誰も見てない。

【スズキさん】

 風呂場から出てくるのを見た人が数人。

【タカハシ君】

 友人と卓球をしていた。

【タナカさん】

 部屋に入るのを仲居さんが確認している。


───────────────────



 「……は、はははっ、ここまでくれば楽勝だ。佳作作家程度が考えることはお見通しなんだよ!一見サトウにはアリバイが無く完全に怪しいが、これはミスリード。つまり身元不明死体はサトウだ!そこからは簡単だな、サトウに恨みを持つヤツを探し出せば良い」


と勝ち誇ったように「どうだっ!」と胸を張るシリウス先生。


「この中にサトウに恨みがあるやつ名乗り出ろっ!」


興奮して大声を上げた。


「出てくるわけないでしょ。指定しなくちゃ物語は進まないわ」


「ならば【タカハシの友人】と【タナカを見たという仲居】に話を聞こうか!」



───────────────────


【タカハシ君の友人】

  「僕達は男だけで観光に来たんですけど

 タカハシのやつ、

 たまたまこの旅館で再会した

 元カノに呼び出されたらしくて

 そのまま帰って来ないんです!

 今頃よろしくやってますよ」


───────────────────


【仲居】

  「タナカさんですか?はい、見ました。

 彼氏さんと旅行しに来たみたいで

 幸せそうでした」


───────────────────



「分かったぞ!タナカの彼氏はサトウだな⁉︎つまり犯人は」



「お待ち下さい」


勘で犯人を言い当てようとするシリウス先生を止めるのは灰荘大先生。

手下B役が楽しくなってきたのかノリノリだ。


「魔法探偵が探知魔法を使わず事件を解くのは愚策かと。いくらシリウス先生だとしてもメア様を甘く見過ぎだと思われます」


「はははっ、その通りだな手下B。もう正解したようなものだが聞いてやろう佳作作家。その彼氏は誰か、そして見つかった証拠品を俺様に見せてもらおうか」


灰荘大先生の余計な気遣いをしなければ私は勝っていた。

確かに不完全燃焼にはなるけど200万部作家に恥をかかせることが出来るから私は満足だ。


……師匠が納得しないのであれば続けるしかあるまい。



───────────────────


【仲居】

  「はい、タナカさんとサトウ君は

 同じ部屋に泊まっています。

 206号室です」


───────────────────


【206号室で見つかった証拠品】

 血の付いた包丁。

 無料配布のライター。

 サトウの財布(金銭、身分証、女性と映っている写真、避妊具)。


【気になる点】

 窓を覗くと真下が焼死体発見現場。

 部屋がかなりガソリン臭いのと窓ブチが焦げている。


───────────────────



「やはりそうだっ!犯人はタナカで間違いないっ!さあ、こんな辛気臭い殺人遊戯ももう終わりだ!負けを認めろ佳作作家っ‼︎」



「流石です!シリウス大先生!」


「よっ!名探偵っ‼︎」


勝ちを確信して憎ったらしい顔をするシリウス先生。

ほとんど空気だった取り巻きA、Bがここぞとばかりにごまをする。


でもこんな呆気なく(おわ)ってたまるか。

ベストセラー推理小説家の背中を追うひとりとして、手を抜くなんてあってはいけない。

今の全身全霊を、このラノベ作家にぶつけてやる。



「大変よ探偵。ここから少し離れた森の中で身元不明死体がもう1体発見されたわ。しかもその隣には首を吊ったタカハシの遺体も」



私は森で見つかった身元不明死体の情報を提示する。



───────────────────


【ジョン・ドゥ】

 焼死体。

 死亡時刻・19時頃。

 発見時刻・20時。

 死因・頭部の打撲?。


───────────────────



「え、流石にこれは……答えじゃんか。メア様。大丈夫ですか?」


「ああ、普通の推理小説家だったらすでに犯人に見当が付いているはずじゃねぇか」


焦る私の手下たちだが。

相手の方はなにも気づいていないようで、新しい死体が現れたことに困惑していた。

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