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笛吹きスチームパンク 1/3

挿絵(By みてみん)

●森屋穂花



 水曜日の放課後。

視線が合うと優しく微笑んでくれるものの話しかけてくれる生徒は現れない。

自分から行くべきだとは思うけど人見知りモードだと難しい。


「穂花ちゃーん。わっちと一緒に帰らないっすかぁ?」


チャラチャラした声が1年A組に響き渡る。

もちろん確認するまでもなく新聞部部長の美玖ちゃんであることは明白。

入り口でへにゃっとした笑顔で手を振っている。

クラスの人達は関わりたくないのか視線を外してさっさと離脱。


とん、とん、ぱっ。

飛び跳ねながらホノの机の前までやって来た。


「帰ろうっす」


「やあだ」


「あれれーどうしてっすか。怒らせるようなことした覚えがないっすよ?」


「三流ジャーナリストにこれ以上時間を裂くのも勿体ないので。ではさよう──なっ⁉︎」


関わりたくないから急いで横切ろうとしたけどグイッとスカートを掴まれてしまった。

引っ張るのではなく下に重力を加えてくる美玖ちゃん。ぐぬぬぬっ。


「そんな悲しいこと言わないで欲しいっすよ!わっちと穂花ちゃんはもう相棒のはずっす!『ホームズ&ワトスン』『バットマン&ロビン』『たけし&きよし』っす!」


「み、美玖ちゃん。分かったからスカートを脱がそうとするのをやめて。それにワトスン君はにぃになのっ!」


大騒ぎするホノを見て教室に残ったクラスメイトは目を丸めていた。

「穂花さんって意外に接しやすいかも?」なんて声が聞こえたけどこんなのは不本意だ。



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



 結局、美玖ちゃんと肩を合わせて学校の廊下を歩く。


「そういえば昨日やってた『推理小説のこれから』って番組見たっすよ。森屋家のママさんインパクト凄かったすね」


「うん、自慢のママだよ。あの暴君作家をコテンパンにしてくれるからね」


「そうっすよね。だから『帝一さんが愚昧灰荘』って考えはもしかしたら間違いだったのかなと思ったんす」


足取りを止める。

このジャーナリストは今なんと言った?

美玖ちゃんの顔を凝視する。


「なんというか、あんなママさんがいたら推理ゲームの相手として穂花ちゃんが選ばれた理由が納得出来るんすよ。批評家の娘が天才読書家だったらちょっかいかけたくもなるっすから」


「……うん、そうだね。ホノもその可能性は高いと思う」


そうだとは思うが、なんだこのあっけなさは。

うるさいくらいにぃにが怪しいと言っていた美玖ちゃんが意見を変えるなんて。

それだけママが強烈だったのだろうか。


「まあでも怪しいのはやっぱり帝一さんなんすけどね!」


すかっ。

ビンタを食らわせてやろうと思ったら避けられてしまった。


「そろそろ負けを諦めてくれないかな?ジャーナリスト君」


「探偵さん。少なくとも帝一さんからスクープの匂いはプンプンするっす。ただ、隙を見せるまではこの女学園の生徒会長でも嗅ぎ回るのもいいかもしれないっすね」


やれやれ、と肩をすくめられた。

呆れているのはこっちのほうだってんだい。


「じゃあホノにちょっかいかけてる暇ないね」


「あらら、寂しいんすかあ?安心していっすよー。わっちら相棒すからね」


「違うやいっ!」



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



 下駄箱を確認。

中身は靴以外はなにも入っていない。

それもそうか、連続なんて。


「も、森屋さん。待ってください!」


少しがっかりしていると、廊下の方から女生徒の呼び止める声。

振り返ると、肩で息をしている1年A組のクラスメイト。

……確か、入学式当日に灰荘の話で盛り上がっていたひとりだ。

緊張しているみたいで顔が真っ赤。


「こちらをっ!」


押し付けるように紙を渡される。

それからダダダッと逃げるように消えていった。


「……なんすか?」


「手紙だろうけど」


天井のライトにかざしてみるが中身は見えない。

結構な厚紙である。


「もしかしたらラブレターじゃないっすか?」


「そんなまっさかー」


「帝一さんに渡してくれみたい……って⁉︎中身は見る前に捨てようとするのはやめるっす!」


手紙を破り捨てようとしたら美玖ちゃんに身体を固められてしまった。


負けるな、ホノ。

この手紙を家に持ち帰ってはいけない。

同級生を『ねぇね』と呼ぶ未来なんて否定するっ!


「ラブレターを勝手に捨てるなんて人間としてどうかと思うっす!それに帝一さん宛じゃないかもしれないじゃないっすか、百合展開もあり得るっす!」


「どっちも困るよっ!」


……ううーん、しかし確認しないのも失礼だね。

トマトに抱きついた可愛い狐のシールをペリッと外し手紙の中身を確認。



────────────


 たぬき、四季。


 舐める、ゴム。


 黒い鳥、かぶる。


────────────



「良かった。灰荘の挑戦状か」


「その反応はおかしいっすよ」


にぃにへのラブレターよりも憎っくきベストセラー推理小説家・愚昧灰荘からの怪しげな犯行予告の方がマシである。


「それで次はドコっすか?着いて行くっすよっ!」


拳を交互に撃ち、戦闘体勢に入る美玖ちゃんだがやめて欲しい。

走って逃げようかと思ったが、昨日と同じ結果になるからやめよ。


でもこの暗号、


「場所じゃないんだよね」


「んー……ところでどうやって解くんすか?この暗号」


「簡単だよ、例えばこの【たぬき】なら【緑】」


「狸の色は茶色っす」


そうだけど、この暗号では緑なのだ。

手紙についてるシールがヒントのつもりだろう。

連想ゲーム【〜〜と言ったら〜〜】なんて具合に解いていく。



────────────


 たぬき=緑、四季=変わる。


 舐める=舌、ゴム=伸びる。


 黒い鳥=カラス、かぶる=帽子。


────────────



最後は【緑が変わる】【舌が伸びる】【烏帽子(えぼし)】から連想。

行き着くのはあのおぞましい生き物しかないのだ。


けれど、ドコヘ行けと言うのか。

唯一思い浮かぶ場所があるが首を振る。

……いやいや、それはない。


ダッと、考えるよりも先に走り出した。


「ごめん美玖ちゃん!緊急事態だから急いで帰るね。明日一緒に帰ろう!」


「え?あっ、よく分かんないっすけど分かったっす!穂花ちゃんは可愛いんだから気をつけるんすよ!お菓子くれるおじさんとかに着いてっちゃダメっすよ」


「着いてかないよっ!美玖ちゃんもネタになるからってヤクザの取り引き現場に行っちゃダメだよっ!」





●森屋帝一




 「「「生徒会長っ!お勤めご苦労様でしたっ‼︎」」」



ひいいっ。相変わらず下校時のこれは慣れそうにない。

教室から出た途端にアーティ高等学校の不良達が頭を下げてお向かいしてくれる。


隣で番長の海兎が「やっぱこうじゃなきいけねぇよな!」と満足そうに頷いているが心臓に悪いからやめてほしい。

それとも『シャバの空気は美味いぜ!』とか言った方が喜んでもらえるんだろうか。


まるでモーセの十戒のように不良の群れが割れて道を作る。

震えた足でその道を歩く。がくがく、ぶるぶる。


「お疲れ様ですっ!」

「押忍ッ‼︎」

「アンタは最高です!」

「一生着いていきますっ‼︎」

「素敵っ!抱いてー!」


怖い怖いん。

特に野太いラブコールが。


「海兎、これはなんとか出来ないのか?」


「気にしないのが皇帝の威厳ってやつだぜ」


「僕は生徒会長だ」




 生徒たちの波を抜けると校門前に人影を見つける。

短い金髪、女の子のような顔、女生徒と男生徒のどちらともに人気がある線の細い美少年。

イギリスとのハーフのため髪は染めているわけでは無いらしい。


2年A組の演劇部、宇多川(うたがわ)(りん)

こちらに気付くとトタトタッと小走りで近付いてくる。


「帝一クン。ボクと一緒に帰ってくれませんか?」


「オイ、宇多川なに考えてやがる」


「畑地海兎、ボクは帝一クンと話してるんだよ。引っ込んでてくれるかな?」


「おうおう、ケンカ売ってんだな。上等じゃねぇか」


ちょっとおふたりとも。

進行方向でバチバチッと睨み合うのはやめてくれないかな。

それともあれか、『私のために争わないでっ!』待ちか。


「海兎すまない。僕も宇多川と話したいことがあるから今日は引いてくれ」


「チッ、仕方ねえ」


まったく納得してない様子で歩き去っていく海兎。

見えなくなるまで凛を睨み続けていた。

……頼むから仲良くしてくれ。


「えへへ、やっとふたりっきりだね!」


先程までの低めのイケメンボイスが嘘かのように声のトーンが上がる

しかも僕の右腕に抱きついて頬ずり。


くはああああっ。

あるわけのないぽよんぽよんした感触に背筋ピンっとしてしまう。


「……宇多川。報告が来ていないけどなにか聞いているか?候補はどんな人か、決行日がいつなのかくらいは教えてほしいんだが」


「ううん。お姉ちゃんは弟のボクになにも教えてくれないんだ。でもキミを喜ばそうと必死なのは間違いないよ」


だからこそ心配なのである。

頑張りすぎて恐ろしい発想に行き着くような奴だ。

まるで宗教かのように僕を敬っている3番弟子。


次の推理ゲームはアイツが選んだ弟子候補。

かなり変わった推理小説家なのは間違いない。

楽しみではあるけれど、穂花になにかあったら……。


「無理しないように、と伝えておいてくれ」


「うん、分かった。やっぱり帝一クンは優しくて好きだなあ」


「──……っ」


甘ったるい声にガクッと膝をついてしまった。

おかしいな、凛は男だ。

この胸の高鳴りは、病気だろうか。


「大丈夫?お腹痛いなら保健室行く」


「近寄るな、宇多川」


天使に見えてしまうのはどうしてだろうか。



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



 宇多川を送って家の前。

髪の毛は付いてない。匂いもしない。証拠は消した。

……まるでキャバクラ帰りの旦那の気分だ。

しかし家には勘の鋭い探偵がいるから用心深い方が身の為。


玄関の扉を開こうと鍵を差し込むが、


「あれ?開いてる」


学校へ行く時には鍵は閉めた。先に帰って来た穂花の閉め忘れか……最悪な場合。


護衛のためにカバンから筆箱を取り出して鉄製の定規を装備。

武器としては役に立ちそうにないが無いよりマシだろう。

出来るだけ音を立てないように家に入──


「にぃにっ、灰荘の弟子にハドソン夫人が誘拐された!」


「は?」


猛ダッシュで玄関に迎えに来てくれる穂花。

どうやらただの鍵のかけ忘れだったみたいで安心、するべきなのだろうが穂花の第一声で血の気がさーっと引いていく。


可愛いカメレオン、ハドソンが誘拐されたと言うのだ。

証拠として空の鳥籠、暗号が書かれた紙。


連想ゲーム。

答えは【エボシカメレオン】。



「はあぁぁぁぁぁぁああっ⁉︎」






宇多川(うたがわ)(りん)

 演劇部の中性的な美少年

 誕生日/6月15日=双子座=

 血液型/O型 髪/金髪

 身長/168cm 体重/49kg

 性格/(帝一曰く)天使

 学年/アーティ高等学校2年A組

 好き/優しい人.歌舞伎

 嫌い/母親.歌舞伎

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