コント:締めきり
ツッコミ「う~ん」
ボケ「先生、未だ完成しませんか? もう〆切りまで2時間を切っているんですが……」
ツッコミ「いや、私としても全力は尽くしているんだよ。でも、こう、なんというか……。そうだな、何か面白いことをしてくれないか。もしかしたらそこから、インスピレーションが刺激されるかもしれない!」
ボケ「面白いことですか……。分かりしました。もう私もなりふり構っていられません。先生のインスパイアのために、全力を尽くします!」
ツッコミ「インスピレーションな! まあそっちでも意味は合ってるから、微妙にツッコみづらいけど!」
――ボケ、突然四つん這いで歩き出す
ツッコミ「……念のために聞くが、それは何かな?」
ボケ「ハイハイです! ネット動画などで、評判が良い傾向があるので、先生のお気に召すかと!」
ツッコミ「見たまんまだな! そもそもそれは赤ちゃんがしてるから人気があるんだよ! もっと、こう、私の見たことの無いようなネタはできないかね?」
ボケ「見たことがないようなネタ……。分かりました。では自作の落語を」
ツッコミ「うむ、よろしく頼む」
ボケ「ではいきます。『聞いてくれよご隠居、となりの庭に囲いが出来たんだァ、それは困ったねえ、ああ本当に困ったよ……』以上です!」
ツッコミ「つまらない面白い以前にオチは!?」
ボケ「申し訳ありません。私、生来度真面目な性格で、落語も何か面白いのかよく分からず、とりあえず形式だけなんとなく真似ただけで……」
ツッコミ「ひどいな! もうこうなったら、私が言ったことをしてくれ。そうだな……モノマネだ。これなら真面目な君でも出来るだろう。ただ動物じゃあつまらない、誰か人間のモノマネをしてくれ」
ボケ「人間の真似ですか……。やったことはありませんが、頑張ってみます! それではいきます!」
ツッコミ「うむ」
――ボケ、不意に自分の顎に手を当て無精髭をさする
ボケ「『あー、俺も年取って親父に似てきたな……』以上です!」
ツッコミ「……ちなみに誰のマネかな?」
ボケ「昨日の就寝前の自分です!」
ツッコミ「それは断じてモノマネではない!」
ボケ「も、申し訳ありません! 私真面目な上に人見知りが激しく、人の顔をまともに見られないので人まねなど……。ここ数十年、鏡に映った自分以外、目を合わせて話した記憶がありません」
ツッコミ「だから君はさっきから俯いて話してるのか……。てっきりあまりにネタがひどすぎて、恐縮しているのかと思ったよ」
ボケ「それより先生、進捗具合は!?」
ツッコミ「残念ながら、君のネタを見てインスピレーションどころか疲労感しか沸かなかった」
ボケ「……それは沸くという言葉をかけたジョークでしょうか?」
ツッコミ「私のはネタではない! というか、もしそうだったとしても、聞き流して欲しかった!」
ボケ「も、申し訳ありません! 私真面目で人見知りが激しい上に、空気が読めない人間でして……」
ツッコミ「君それでよく会社に入れたな! ああもう、〆切りまで1時間を過ぎてしまった。そろそろ本当に何かしないと……」
ボケ「先生」
――ボケ、不意に真面目な顔でツッコミに詰め寄る
ツッコミ「な、なんだね、藪から棒に」
ボケ「実は私の家に代々伝わる、必殺技があります」
ツッコミ「必殺技? なんというか、この状況で必要な技能には思えないが……」
ボケ「これは戦いのための技ではありません。かつて私が住んでいた村はベビーブームの影響で100人もの赤ん坊がいました。102分の100が赤ん坊です」
ツッコミ「いくら何でも多すぎるだろ! 1組の夫婦が生涯作れる子供の限界を軽く超えてるぞ!」
ボケ「赤ん坊の泣き声はすさまじく、日本最初の環境公害として国に認定されました」
ツッコミ「そりゃ赤ちゃんの泣き声はうるさいけど、100人ならそこまでじゃないだろ!」
ボケ「その時、通りすがりの熊のような料理研究家が、赤ちゃんが泣き止むネタを村に授けてくれました。以後、赤ちゃんは親が死ぬまで泣かなかったと言います。それこそが我が村に伝わる一子相伝の必殺技なのです」
ツッコミ「ツッコミどころが多すぎていちいちツッコむのも面倒だから、とっととそのネタをやってくれ!」
ボケ「はい、それではいきます」
――ボケ、いきなり身体をくねらせ、奇妙な動きを始める
ツッコミ「なんだね、その死ぬ間際のミミズのような動きは?」
ボケ「必殺技の前のマナを集める儀式です」
ツッコミ「なんという……素晴らしい動きだ! これで締め切りに間に合うぞ!」
ボケ「さすが希代の振り付け師ツッコミ先生! これでダンス選手権にも間に合います。ただ必殺技は……」
ツッコミ「さあこれから忙しくなるぞ!」
――舞台から、出て行くツッコミ、1人残されるボケ
――了――