ドクター・ベリル 2
「クロトは治療をしても長くは生きられないだろう。元々が虚弱体質で肝機能も随分悪い。その所為で脳に障害が出ている。ネロリアの毒性にもう耐えられる体じゃなかった。ジェームで治療しても心臓が動いていると言う意味で最長2年程度だろう。そうでなければ数か月持てばいい方だ」
ネロリアを吸引しなくても、ローヴィニエの医療では同じ程度の寿命だったろう。おまけに排出促進剤にアレルギーが出た。もう、手の打ちようがない。医師として腕に多少の自信はあるが、機械と違って人を治すことに完璧も絶対もないとよく知っている。
「ダイア・アカバはネロリアへの感受性が人一倍高かった。もうまともな生活はできないだろう。暴露時間と量も多かった。鼻と口の再建をしてやるほど、俺は万人に優しい医者じゃないからな。あれでも飯は食えるだろう。それに、フヅキはダイアを許さないだろう。家系的にネロリアの適合が良すぎるから、知れば殺さずに利用する事を選ぶだろうな」
「それは、伝えればでしょ? そうでなきゃ死刑で終わる話」
過去の遺産はオーパーツだけではない。医療技術や他の分野でも多く封印されたものがある。そして自分は帝国を守ってきたものだ。帝国の利益を捨てて、エラを苦しめた者の人権まで擁護する気はない。過去にネロリアを発見した者と同じような思考は自分にもある。悪人ならば、自分の大切な者に手を出す輩には、人権など必要ない。
「安心しろ。お前の取り分まで奪う気はない。まあ、もっと上手く動いていれば、エラとベンジャミンがこんな目に遭うこともなかったんだろうけどな」
「やー、三百年も傍観者になってたから、遊び方忘れちゃってね。君みたいに参加型じゃなかったからさぁ」
暢気にロミアが返す。
ローヴィニエ城の一角がジェーム帝国のものになっている。通信機を組み上げ、帝王のフヅキと連絡を取れるようにしていなければあれが出向きかねない。その程度にあれは怒り心頭に発している。それはそうだ、表沙汰にはできないがエラはジェーム帝国の帝王の娘でもある。溺愛する愛娘が散々な目に遭わされたのだ、新たな技術を使い国土全部を焦土にしても気は晴れないだろう。それをやりかねない男でもある。それをすれば、オーパーツの見方も三国同盟にも影響が出るのは必至だ。もし、エラの治療が遅れていれば、ローヴィニエの兵にでも捕らえられていれば、今頃は命はなかったろう。ジェゼロの血筋は確かに強い体質だが、不死ではない。エラの状態はそれくらいギリギリだった。ローヴィニエ国は血の海になる事を避けられたのは偶然か……
「まあまあ、お二人に呼ばれたと伺いましたけど。少し張り切って早く来すぎてしまいましたか?」
部屋に通されてきたのはエリザ・バジー夫人だ。白髪の目立つ老婆だが年の割には若く見える。昔は中々の美人だったろう。ロミアの方を一瞥する。ここに呼んだのはこいつなりの誠意か?




