ドクター・ベリル 1
十六
「ベリル先生おつかれー、エラとベンジャミンは順調かい?」
部屋に戻るとロミアに暢気に声をかけられる。応接兼休憩用にしている部屋だ。経過を確認しに来たのだろう。
「危険は脱した。破壊されて数年経っていたせいで毒性がましていたが、それがあの二人にはよかったんだろう。エラは毒には耐性が強いからな。それよりも脱水で死にかけた。今は安定しているがな」
「怪我は?」
「手の傷は問題なく治るだろうが、足の裏にできた火傷は無視できないな。治りはするだろうが、しばらく歩くことは厳禁だ。重度の火傷をした状態で不安定な靴で歩かされてかなり酷い状態になっていたからなに」
エラに点滴をして脱水への手当てを先に行った。今は安定しているので念のためにネロリアの排出促進剤を打っている。意識も取り戻して、状態も確認したし、経緯も聞いた。ネロリアは使い方を知らなければただの毒だ。そして何かの治療に使えるわけでもない。ただ一点の特異な効果の為だけにある。
「あの虎みたいな動物がいるならこっちで保護してやって欲しいと頼まれたが、それ以外はローヴィニエへ希望は特にないそうだ。ジェゼロ以外に興味がないらしいな」
「あー、あれは酷いよね。まあ、エラが頼めば動物園くらいフヅキくんがつくるでしょ。エラはオオガミ君と同じで動物好きだから。ベンジャミンは未だにエラに張り付いてるの? あれは副作用が出てるのかと思ったけど、今は一応正気っぽいよね」
「最初にエラを渡さなかったときは、副作用もあったろうけどな。今は意固地になっているだけだろう。ナサナの血があることは既に証明されているからな。それに、背が高かったのもよかった。ネロリアは気化すると空気よりも重くなる。濃度が多少は低くなるからな。エラと同じく排出促進剤を数本打っておいた。まあ、タダじゃあ安静にしそうにないからエラと同室にしたが。エラと違って、背中の傷はいくらか残るだろうが、毒薬の中和は行っておいたから、痛みや後遺症は出ないだろう」
ベンジャミンには多少の借りがある。同じ部屋にいる事をエラは拒否したが管理の為だと言いくるめておいた。それに自分はジェゼロの神ではなくジェームのものだ。この場合はエラの機嫌よりもベンジャミンの回復を優先する。
「難儀な子だねぇ」
暢気なロミアにため息が出る。治療を全部丸投げにされたおかげで、その他の事はロミアが動いている。帝王フヅキにはもどう話していることか。
「日光アレルギーの子と元女王様は? 大分薬をキメちゃってたけど」
「……」
ジェーム帝国の第二巫女は同じく日光アレルギーを持っているが、帝国でちゃんとした治療をし、いい女に育った。クロト・イセはまた違った病だが、正しい治療をしていれば結果は違っただろう。その残虐性を許すことはできないが、育てた大人の責任がないとは言えない。