ローヴィニエの秘密 5
思考が鈍くなっている。腐敗臭とともに薬品のにおいがする。密閉されたこの場は、エラ様のお体に悪い。できるだけ浅く息をする。ナイフを取り、足枷を無理に外す。片方だけ外れると、エラ様の許へ向かい。抱え上げる。ぐったりする体を抱き寄せ部屋を出た。
腐敗臭は強い。だが階段を昇り始めると薬品のにおいは薄まってきた。やや吐き気はするが、霞がかった思考はマシになる。ダイア・アカバの行動も、薬により判断能力が鈍った結果だったのだろう。
腕の中のエラ様を見下ろした時によだれが垂れて轡をしたままだと気づく。それに、外には兵がいるはずだと。
それでもあの場にとどまることはできない。階段を上がり切り、隠し階段の出口近くまで来た。
「エラ! いるの~?」
間の抜けた声がして、息をのむ。その間抜けた声を自分はよく知っていた。薬は幻聴まで引き起こすのかと冷や汗が背を伝い、傷に痛みが走る。いや、これは現実だ。
この状態であのバカまで捕まっているのかとも思った。床から顔を出しあたりを窺う。教会に入ってきたのはそのバカで間違いないが、手引きしたジェームの者もいるのが、彼らの持つ明かりでわかる。。
「あ、いたよー」
夜目も聞く相手がこちらを見て駆け寄ってくる。それは自分が帝国へ行かされる理由になったもう一人、ジェゼロの神だったロミア様だ。
「何々、新しいプレー? でも今はちょっと休憩ね」
手がふさがっている自分に変わりジェームの兵が轡を外す。
「外は?」
轡が外されると、最初にそれを問う。
「ああ、大丈夫だよ。エリザがお城を乗っ取ったから」
「エリザ・バジーが? それよりも、エラ様を。脱水症状と熱がっ。命にかかわる状態です」
「……本当だ」
いつもはとぼけているロミア様がエラ様を見て珍しく神妙に言う。
「なんだ。見つかったのか?」
別に入ってきたのはオオガミだと錯覚した。だが違う。
「ベリル様?」
ロミアとオオガミが帝国に向かった理由だった人物がいた。ジェーム帝国の神官として三百余年過ごしたもう一体の人型のオーパーツ。
「ロミア、下にあれがあるのは間違いなさそうだ。まあ、腐ってそうだけどな。よく頑張ったな。後は、任せとけ」
出てきた階段をのぞき込んだ後、それがエラ様を受け取ろうとする。だがその相手を拒んでいた。
「俺が運ぶ」
自分も限界に近いとわかりながら、渡した方が早いとわかりながら、口に出る。
たとえエラ様に愛想を尽かされようと知ったことじゃない。俺以外にエラ様の近くにいる資格のあるものなどいない。
国王命令だろうが、二度とお傍を離れるものか。




