ローヴィニエの秘密 4
「ダイア姉さん?」
「うるさいっ。こんなもののためにっ……」
近づいたクロトを突き飛ばす。そのやり取りの中、後ろ手に縛られていた縄が解かれる。振り返るとエラ様がいた。ご自身の手の縄は解いていない。その手から血が流れ、散らばっていたガラス片を握っていた。
様子がおかしい。
こと切れたように意識を失ったエラ様を咄嗟に支え、そっと床に横たえる。体が微かに痙攣を起こしている。エラ様は不機嫌だったわけではない。朦朧とする意識をお心持ちだけで耐えていたのだ。あの熱の中どれだけ耐えられていたのか。どうして水の一つも与えられていないと考えなかったのか。
「お前、何してるっ。誰が勝手に」
手の拘束が解かれているのを見て、慌ててクロトが首輪の縄を取る。引かれる前にそれを引き寄せる。縄を引けるのは自分だけだとでも思っていたのだろう。掴んだ縄を放すこともできず、引き寄せられた相手の顔面にこぶしを叩き込む。死んでもいいと一切の加減などしていない。
「命令よ。エラ・ジェゼロを助けてほしかったら言うことを聞きなさい」
ダイア・アカバがそれまでと同じように高みにいるように言う。もしもエラ様に刃を向けてならば効いたろう。その手には護身用に隠し持っていたのだろう。短剣が握られているだけだ。
「……」
足枷はされたままで歩きにくいままだがこう長く距離を歩けば扱いにも慣れてくる。
体術はほとんど習っていないのだろう。一直線に狙ってくる。いや、こちらではなくエラ様の許へ向かっている。自分の首から伸びる縄を掴み、それを鞭のように扱う。首に巻き付いたそれで体勢を崩した瞬間に、さらに力を入れ引き抜く。縄が首にこすれながら外れる。折れはしなかったが、皮がむけ血が滲む。倒れこんだままナイフを振り回す。それを掴み振り払った時に何かが落ちた。
けたたましい悲鳴とあふれる血で、ダイア・アカバの顔の一部がそげたと理解する。鼻と唇の一部がナイフの近くに落ちた。