ローヴィニエの秘密 3
「ど、どうしたの?」
その反応にクロトが驚いていた。本来は何かが映っているべきだったのだろう。機械が故障していても不思議はない。自分は帝国にいた時にこの手の物を散々手伝わされた。オーパーツと呼ばれる旧人類の科学的遺産だ。
「っ」
無言でダイアが縄を引きエラ様が突然の事で体勢を崩し転倒してしまう。
「この先に行く扉を開けられるのはジェゼロ家の当主だけ。もしも開けることができなければ、あなたの子供を連れてきて生贄にしてやるわ」
エラ様の髪を乱暴につかみ上げ凄む女を蹴り飛ばしたくて仕方ない。エラ様はただ睨み手を離されるとゆっくりと立ち上がった。
機械が並ぶ中、左手に扉がある。その横には、ジェゼロの神殿に入るのと同じ装置があった。以前オオガミはそこへよそ者を入れないために破壊したのを思い出す。だがエラ様はそこに素直に手を入れた。
「………」
しばらく待つが何も起きない。
「やっぱりバジーの血じゃないとだめなんだっ」
クロトが悲壮とも怒りとも取れない声で叫ぶ。さほど広くない部屋にこだました。ダイアがエラ様に手を振り上げる。
『解析を始めます。しばらくお待ちください』
それが振り下ろされるよりも前に、天井から無機質な声が響いた。
ジェゼロの機械は旧文明の中でも最上位の種類だ。ここのものは全体的に反応が遅く、管理機能も備わっていないように思う。この長い間で完全に壊れるのをようやく堪えているようだ。
「もうっ、もういいでしょう。こいつに誰が偉いか教育してもっ」
エラ様の役目が終わったと、しびれを切らしてクロトが言う。
「待ちなさい。中に入れたらそこで後は好きにしていいから」
うんざりしているのを隠し切れないのはまだ開かない事への焦りか。エラ様が何かするにもそれが難しいことは理解している。
『認証を確認しました。薬剤の扱いには十分にお気を付けください』
言うと鍵が開く。それを見てダイアがエラ様を押しのけて中へ駆け込む。引っ張られ、クロトと共に中へ入る。途端に腐敗臭で鼻が曲がるようだった。
「どういうことっ」
悲鳴に近いダイア・アカバの声がする。
中は水槽のようなものがいくつも並んでいた。クリーム色の床には、青い液体が乾いた跡がある。そして、水槽の中には白骨した死体が並んでいた。小さいものに至っては子供のようにも見える。
「これはなに、ここに未来があるはずでしょう!? ここにっ、世界の全てを手に入れる方法があるんでしょうっ」
叫ぶ姿にクロトが動揺していた。