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国王陛下育児中につき、騎士は絶望の淵に立たされた。  作者: 笹色 恵
~公国の秘密~

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90/144

気色の悪い性癖 後

「恐怖で屈服させなければ何もできないとは、本当に王座を奪われた方がいいな」

 鳥かごめがけて鞭を振るう。金属が震え共鳴するような音をならした。エラ・ジェゼロの頬に薄く赤い筋が入る。

 政治はちゃんとしている。ただ、その憂さを晴らす場は王にだって必要なことだ。

「気に入らない」

 用が済んだら帰してもいいと思っていた。ジェゼロの軍事力は脅威ではないがジェームやナサナを相手にするのは面倒だ。恐怖に屈服した相手はその痛みを忘れない。だからしっかりと教育してからならば、可愛い息子の許へ返してやろうと思っていた。だが、そうはできない。用が済んだら、徹底的に教育を施して手元で飼うことに決めた。

 宝箱から鞭の種類を変える。さき程の鞭と違い、鱗のように加工されたものだ。その先にはカエルの毒を染み込ませ、打たれれば焼けるような痛みが続く。

 何度も鞭打たれ、赤い筋が綺麗に織り込まれた背中に力いっぱい振り下ろす。それまでと違い。わずかに跳ねる。痛みがないのかとすら思ったが、所詮はやせ我慢だ。

 二度三度と振るっていると、ドアの開く音がして手を止めた。

「ダイア姉さん。そいつは僕が教育する」

 顔に軟膏を塗りぬらぬらと輝く顔は赤く腫れている。ただ歩いているだけでぜいぜいと息をしていた。皮膚に火傷に近い炎症を起こすだけではない。火の光に当たれば、内臓にまで影響が出る哀れな化け物だ。

「もとはと言えばあなたが勝手をしたせいでしょう」

 ずるずると足を引きずるように歩いていたが、貼り付けにされた男を前に止まると、待っていた水差しを男の頭からぶちまけた。独特な匂いで火炎燃料だとわかる。

「やめろっ」

 エラ・ジェゼロが初めて大きな声を上げた。

「もしも、火を放てば、私はこの場で死を選ぶ。お前たちの目的がジェゼロ王の死体で果たせると思うな」

 焦り、恐怖する姿だ。だがこの女ならば本当に舌を噛み切ってでも死にかねない。いや、もっと簡単な方法があったらしい。固定された机に立つと、尖った飾りを掴んでいた。そこから逃げることはできないが、死ぬことはできる。

「クロト。止めなさい。あなたの病気が治らなくなっていいの? お日様の下を歩きたくないの?」

 エラの脅しに一瞬ひるんだが、これはやりかねない。利益と不利益の計算ができないのだ。だから、答えを教えてやる。

「でも」

「次の日の出までには、あなたは健康な体になれるわ。そうなったら、好きに教育してあげなさい。今はその時間がないの」

 耳元で囁く。エラが止めなければ、既にその手のマッチを擦っていただろう。

 不服そうだがマッチを渡させた。

 後ろの兵に指示を出して水をかけさせる。誤って火など点けようものなら大事な鍵まで壊れてしまう。それに、この男はエラを動かすのに使えることが分かった。随分と芯が強いようだが、惚れた男が死ぬことはそう耐えられるものではない。

 鍵としての役目を終えた後、ベンジャミンを使えば、エラ・ジェゼロも壊すことができる。



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