気色の悪い性癖 後
「恐怖で屈服させなければ何もできないとは、本当に王座を奪われた方がいいな」
鳥かごめがけて鞭を振るう。金属が震え共鳴するような音をならした。エラ・ジェゼロの頬に薄く赤い筋が入る。
政治はちゃんとしている。ただ、その憂さを晴らす場は王にだって必要なことだ。
「気に入らない」
用が済んだら帰してもいいと思っていた。ジェゼロの軍事力は脅威ではないがジェームやナサナを相手にするのは面倒だ。恐怖に屈服した相手はその痛みを忘れない。だからしっかりと教育してからならば、可愛い息子の許へ返してやろうと思っていた。だが、そうはできない。用が済んだら、徹底的に教育を施して手元で飼うことに決めた。
宝箱から鞭の種類を変える。さき程の鞭と違い、鱗のように加工されたものだ。その先にはカエルの毒を染み込ませ、打たれれば焼けるような痛みが続く。
何度も鞭打たれ、赤い筋が綺麗に織り込まれた背中に力いっぱい振り下ろす。それまでと違い。わずかに跳ねる。痛みがないのかとすら思ったが、所詮はやせ我慢だ。
二度三度と振るっていると、ドアの開く音がして手を止めた。
「ダイア姉さん。そいつは僕が教育する」
顔に軟膏を塗りぬらぬらと輝く顔は赤く腫れている。ただ歩いているだけでぜいぜいと息をしていた。皮膚に火傷に近い炎症を起こすだけではない。火の光に当たれば、内臓にまで影響が出る哀れな化け物だ。
「もとはと言えばあなたが勝手をしたせいでしょう」
ずるずると足を引きずるように歩いていたが、貼り付けにされた男を前に止まると、待っていた水差しを男の頭からぶちまけた。独特な匂いで火炎燃料だとわかる。
「やめろっ」
エラ・ジェゼロが初めて大きな声を上げた。
「もしも、火を放てば、私はこの場で死を選ぶ。お前たちの目的がジェゼロ王の死体で果たせると思うな」
焦り、恐怖する姿だ。だがこの女ならば本当に舌を噛み切ってでも死にかねない。いや、もっと簡単な方法があったらしい。固定された机に立つと、尖った飾りを掴んでいた。そこから逃げることはできないが、死ぬことはできる。
「クロト。止めなさい。あなたの病気が治らなくなっていいの? お日様の下を歩きたくないの?」
エラの脅しに一瞬ひるんだが、これはやりかねない。利益と不利益の計算ができないのだ。だから、答えを教えてやる。
「でも」
「次の日の出までには、あなたは健康な体になれるわ。そうなったら、好きに教育してあげなさい。今はその時間がないの」
耳元で囁く。エラが止めなければ、既にその手のマッチを擦っていただろう。
不服そうだがマッチを渡させた。
後ろの兵に指示を出して水をかけさせる。誤って火など点けようものなら大事な鍵まで壊れてしまう。それに、この男はエラを動かすのに使えることが分かった。随分と芯が強いようだが、惚れた男が死ぬことはそう耐えられるものではない。
鍵としての役目を終えた後、ベンジャミンを使えば、エラ・ジェゼロも壊すことができる。




