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国王陛下育児中につき、騎士は絶望の淵に立たされた。  作者: 笹色 恵
~公国の秘密~

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潜入 後

「み、ず」

 指が伸びる先にあるレバーを跳ね上げる。天井近くから水が噴き出た。エラ様を唯一見る事の出来るガラス窓が一瞬で曇る。これだけだと悪化する。水を止める前に横のレバーを上げた。よく見れば上に文字が書かれ親切にも天窓と書かれている。それがゆっくり開くと熱く蒸された空気が抜ける。

「っ、ああー。痛い。痛い痛い」

 男が急にもがきだす。顔を覆う手に赤い発心が発生する。青白い肌は白子かと思ったが、違う。太陽光に対して拒否反応のある体質か。だがそんな事を助けてやる義理はない。

 水と風邪で空気は冷えても、すぐに鉄柵は冷えない。エラ様を助けに行かなくてはならないと言うのに、この部屋から中に入る場は見えなかった。

「くそっ」

 窓を叩き割ろうとしたが強度が高すぎる。男を放し、椅子を持ち叩き付ける。一筋のヒビが入った。もう一度振りかぶり体重を乗せ叩き付ける。

 蒸し暑い空気が部屋に流れ込み、水の音が一層近くなる。

「……ベンジャミン?」

 声がはっきり聞こえたわけではない。だが虚ろな瞳に自分が写っている。

「直ぐにお助けしますっ」

 ぐらりとふらついた。倒れず足を前に出して支えたエラ様がはっきりと次はこちらを見た。

「避けろっ」

 はっきりと聞こえた声に咄嗟に振り返る。男が自分がしたように椅子を振り被り殴りかかる。だがその体躯は筋肉がろくになくひ弱だ。椅子だけの重みを薙ぎ払い、改めて締め上げる。

「どうして来たっ。もう、お前は解任したっ」

 汗だくになったエラ様がそれまでの放心しかけた顔からはっきりとした意思のある顔をされる。男の首を締め上げ、完全に落としてから改めてエラ様をみた。

「惚れている相手を助けに来るのに理由など必要がないでしょう」

 例えエラ様に愛想を付かれようと、それはエラ様の感情だ。自分勝手に好いてくれとは言えない。だが、自分の感情を変えることもできない。

「私はいい。逃げろ。命令だ」

 エラ様が何かをぐっとこらえ叫ぶ。空気はまだ暑苦しいがだいぶと冷えた。水を出すレバーを引き下ろし。止める。

「私はもう。あなたの命令を聞く立場にはありません」

「私の命令は聞いてもらうわ」

 ドアが開き、剣を構えた兵が入る。その奥に女がいた。

「……下からしか彼女は出られないわ。あなたが助ける前に、エラ・ジェゼロを殺すことは簡単よ」

 ダイア・アカバ。先にそれを人質にするべきだった。だが、ここに来ることが遅かったら、エラ様はどうなったかわからない。

「気を失っているだけです」

 兵が倒れている男を確認して言う。

「可愛そうに。部屋へ運んで」

 赤く腫れあがった顔は自分が叩きつけた以上のものだ。

「噂には聞いていたけれど。ジェゼロの噂は結構事実が多いのね。ジェゼロの騎士ベンジャミン。お目にかかれて光栄だわ」

 溜まった水に飛び込むことも考えた。だがそれではエラ様をお助けできない。


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