潜入 中
部屋に入ると微かに焦げた匂いがした。
「今日はお茶を頼んだと聞いていませんけど」
メイド姿の若い女が入ってきた自分を見て慌てて言う。中に他には人影がない。
「自分も急に言われまして。ダイア様は?」
「おかしいわね。今は会議で出られて」
近くのチェストに盆ごとティーセットを置いてから、近づく女中の喉元を掴み上げる。頸動脈の血を止める。女の腕がもがき掴み上げる自分の腕に抵抗するがそう時間を絶たずに力を失った。殺すよりも適度に気を失わせるのは難しい。一応呼吸と脈を確認してから部屋を見渡す。頭の中の地図とここを照らし合わせる。正面の部屋。周辺は改修され詳細は不明だった。そこへ迷わず向かう。明らかに何かが焦げる匂いがする。ドアを開けるとむっとした熱い空気が伝わってくる。
「誰だ」
こちらを振り向いたのは気味の悪い男だ。咄嗟に腕を取り、背後に回ってから首を絞める。自分の視界に別なものが映る。巨大な鳥かごに入れられた一人の女性。まっすぐと直立で立っている。そして、その下には赤い炎が広がっていた。
「エラ様……」
力加減を間違いそうになる。
「火を止めろ」
首をへし折る前に男へ低く命じる。
男が部屋にある装置に手を伸ばす。指が届く前に引き寄せ首を更に閉め耳元で言う。
「判断を誤るな。この首を折るのに時間はかからない」
さっき触ろうとしたボタンの横に手を伸ばす。ばつりと音を鳴らして火が消えた。
「どういうつもりだ。何をしたっ」
壁にその顔を叩き付け、問う。エラ様はこちらに気づいていない。虚ろな目で、ただ直立で立っている。その理由を理解する。普段履かない高いヒールの下にはクッションを置いている。どこを支えにもできない。鉄でできた入れ物は、十分に熱せられている。
「教育、教育をしてただけだ」
「……天井を開けろ」
視線を巡らせる。造りを見て天井が開閉できるようだと判断し命じる。
「で、できない」
「なら、何ができる」
今できる事を考えろ。冷静になれ。エラ様はまだ耐えられる。




