教育 後
「……にゃんにゃん」
せっかく癒されていたというのに。無粋な真似をする相手を見上げる。ダイア・アカバではない城についた時に出てきた男がいた。病気なのだろう不健康な外見をしている。造血関係が悪そうだ。
「かわいいよね。ティって言うんだ」
「……こんな場所に入れられては可愛そうだ。ちゃんと遊べる広い場に戻してやった方がいい」
「普段はちゃんとした場所に飼ってるよ」
「ならばよかった」
毛並みもいいしちゃんと管理されているのはわかる。好奇心は旺盛だから比較的若い猫だろう。
「ジェゼロの伝説は本当なんだ。じゃあ、その血を飲めば万病が治るって言うのも本当かな」
赤に近い茶色の目がこちらを見た。
「残念だが前国王は病で他界した。他人を治せるほどならば今も元気に生きていただろう」
見た目の不健康さだけでなく本当に体の血全てを抜きかねない気がして訂正する。ダイア・アカバは人をいたぶることを好むが、これまでの経験でか、程度を心得ている。だが、この男は違うと本能的なものが警告していた。
「そうか。残念だ」
諦めたのかその覗き部屋の奥に戻る。高い場所に開いた窓の奥は小さい部屋になっている。完全に安全な場所から中の者を苦しめるための仕掛けがあるのだろう。その絡繰りには興味はあるが、ジェゼロに欲しいとは思わない。
「ああ、あった」
中から声がして下に水が流れ出す。その異臭に服の袖で口を覆った。次の瞬間一面が赤くなり、さっきまでじゃれていた大きな猫がのたうち回り悲鳴を上げる。
「何をっ」
「襲うべき相手に懐くようじゃだめだから。教育をしているんだよ」
双方が見返し問われることを不思議そうに言う。
「やめてくれ。このままでは本当に死ぬぞっ」
床は一面が火の海だ。逃げ場なくのたうち回る。熱い空気と共に毛と肉が焦げるにおいが立ち上る。
「どうして? 教育だよ?」
ダイアは非道なことをしていると自覚している。だが、この男は違う。正しいことをしていると思っている。
「もう十分だ。もう……」
下にいた猫が動かなくなる。火が消えても猫は動かない。
「………」
自分が怯えるべきだったのか? いや、違う。そんなことで殺していい理由などない。
「あー、火が強かったんだね。いつも間違えるんだ」
言うとまた火が点る。大きな猫の体は再び火に飲み込まれてしまう。だがもう動かない。
「次は大丈夫。そこなら、直接火が当たらないから」
そうにこりと笑う様はダイア・アカバなどよりも余程恐怖心を煽る。




