教育 前
猫だ。それも大きい。鋭い牙に何を考えているのかわからない目。美しい黄色と黒の縞模様。白い胸毛。
「さっ……」
触りたい。もふもふしたい。キングの首やオオガミのところの狼犬を撫でたくなる時がある。今ならその理由がわかる。癒されたいのだ。
「すごい。本でしか見たことがなかったが、本当に犬よりも大きな猫がいるのだな」
ひとり呟く。いや、降りてくる籠の中に大きな手を入れてのぞき込む彼女に言う。
「嘘だろ、こんなにかわいいのか」
小さいころに拾ってきた猫は直ぐに貰い手を見つけられてしまった。よく子猫を見つけて大人を困らせていた。
水責めの時点で途方もなく嫌われているのは理解したが、こんなかわいいモフモフを見せてくれるとは、案外悪いやつではないのか? いや、ユマの命を狙った時点で最悪な性格なのは理解している。これも人なんてまずいものを食わされてかわいそうに。
手の甲をそっと近づけると匂いを嗅ぐ。鼻だけが柵の間から侵入している。自分の存在を確認してもらってから、顔を撫でる。しばしばした毛並みだがこれはこれでいい。
「お前、美人だな。こんなきれいなお嬢さんは見たことがないぞ。ああ、耳が丸っこいんだな。ふふ。可愛いにゃんこめ」
身を乗り出して手を出して撫で繰り回す。ごろごろと喉を鳴らしだす。きっとジェゼロに連れていきたいといったら怒られるんだろうな。いや、そもそもここにベンジャミンがいたら危ないからやめなさいと叱られている。
「……」
いっそう撫でる。大きな肉球のある腕が伸びてがじがじと甘噛みをされる。
愛撫を堪能していたとき、辺りが暗くなる。天井の明かり窓が閉められたのだ。ぎりぎりと上から音が鳴り、地面が遠ざかって猫が離れる。最後まで身を伸ばして手をかけていたので最後に前足が離れた時に盛大に揺れた。




