大きな猫
十四
気を失ったエラ・ジェゼロの服を剥ぎ、自分好みの白いレースをふんだんに使った洋服を着せる。昔にもらった人形が着ていたのとそっくりのドレスだ。長い髪も綺麗に巻いて整えさせた。とても可愛らしい人形が出来上がる。それを入れた鳥かごを今はできるだけ高く引き揚げさせていた。そうすると自分の部屋の一室と同じ高さになる。
「……」
ゆっくりと瞼を上げた異国の女王はこちらを見るとうんざりと表情を歪めた。恐怖するでも怒るでもない。
「趣味が合わない」
視線を落とし着ている服を見て言われる。これまでの人形は助けてと懇願するか、発狂したのに、水死させられかけた後だというのに、とても冷静だ。
「とても似合っているわよ」
到底一児の母には見えない。実際に裸の様を見てもそう思った。少女のような見た目。宝石のような緑の瞳。
「まさか、他国の王を攫って、着せ替え人形にしたかった訳ではあるまい。用があるなら早く済ませたらどうだ」
主従を知らしめるつもりだったが、これはこれで面白い。むしろ遣り甲斐がある。
「同じ女王じゃない。少しくらい仲良くお話ししませんか?」
「私の知る王と言うものは、少なくとも自分の役割を理解していた。それができぬものは王ではなくただの道化だろう」
冷え切った目にぞくりとする。泣いて屈服する姿はどれほど美しいだろう。想像するだけでも心が震える。
クロトのように、体に傷をつけることは好きではない。男を使うのは自分ではなくそれに恐怖するだけだ。自分に恐怖するように屈服させ二度と立ち上がれないようにしたい。
「……ジェゼロ王はたくさんの伝説がありましたよね。毒が利かないとか、傷がすぐに治るとか。それに、すべての生き物に愛されると」
目が覚めたら、どれから試そうかと考えていくつか準備はさせていた。彼女に対しては規制が多い。大怪我は避けなくてはいけないし、顔を剥いだり内臓を溶かすこともできない。少なくとも、すべてが終わるまで、五体満足である必要がある。ただ、屈服させた方が仕事はしやすい。
「そうね、猫と遊んでみるのはどう?」
横の侍女に指示を出す。ほどなくして下のドアが開き、一匹の猫が放たれる。大きな大きな虎猫だ。
「……」
見下ろした先の生き物を見た後、ゆっくりと鳥籠が下へと戻っていく。
「その子、人の肉が好物なの。肉をはぎ取られないように真ん中にいる方がいいわ。怖くなったら、助けを呼んでね」




