調査隊
馬はただの動物だ。人よりも劣っている。だが、人ができることにどれだけの価値があるか。野山をかけ、草をはみ、子を成して次の代を育む。それ以上の価値がこの世に必要なのか。
さすがに息が上がったキングを見て思う。普通ならば倒れるような酷使をされてなお、キングは走り続けた。つぶれる前に休憩を入れても、これは直ぐに出発を促した。休息などせずに走ることが望まれる。だが、馬が潰れ走れなくなる方が時間を使う。そのギリギリを進んでいる。例え死んだとしてもキングは足を進め続けるだろう。
ローヴィニエの検問の手前の町に入ると男が二人立っていた。すっと背筋を伸ばしてこちらを見ている。
「お待ちをしておりました」
「……調査隊か」
「はい。状況をご報告申し上げます」
キングの息が随分荒くなっている。一度キングの背から降りると、そのまま近くの草場までとぼとぼと歩きその巨体を横たえた。
「ロミア様はバジー家が所有する孤児院の一つに滞在しています。危害などは加えられておらず、王が変わった後も町は混乱していない様子で」
「ロミアのことはどうでもいい。エラ様はっ」
思わず声を荒げてしまう。
「……エラ様?」
それに眉根を寄せる。不安定なった国からロミアを回収しに来たとでも思っていたのか。
「ここをローヴィニエ貴族の馬車が通らなかったか」
「昨夜、遅くに。バジー家派閥のものが一つ。今回の内乱で婦人の安否を案じたのでは?」
既に通った後か。
「内密に中へ、ローヴィニエへ入りたい。その馬車がどこへ向かったのか今直ぐに確認を」
「我々は偵察とロミア様の許への案内だけを申し使っています」
ジェームの調査隊はずば抜けた身体能力や一芸に富んだものが集められた帝王直下の部隊だ。帝王以外の命は聞かないし、本来はその姿を晒すことも極限られている。
「エラ様がローヴィニエのダイア・アカバに連れていかれた可能性が高い。すんなりと検問を通ったと言うならば、クロト・イセはダイアと敵対していない。帝国へは既に情報が言っているだろう。明日か明後日には命も下るだろうが、そんなものを待つ時間はない。今指示に従わずエラ様にもしもの事があれば、帝王が嘆くだけでは済まないだろう」
この男は声に聞き覚えがある。エラ様がジェゼロへ戻る際、帝王がつけた調査隊にいたはずだ。その時は姿を隠していたが、帝王がエラ様を特別視していることは十分に承知しているはずだ。それにともに同行していた自分がとの立場にあるかも知っている。
「……直ぐに手配を、半時ほどで戻ります。今は体をお休めください」
休んでいる間はない。だがほとんど寝ずに馬を走らせた。それはキングも同様だ。無理に検問を抜ければ目立つ。帝国ならば裏の入り口の一つや二つ知っているはずだ。
草むらに腰掛けキングに倣い横になる。
エラ様は無事だ。誰よりもお強い方だ。それに直ぐに殺すはずはない。




