馬車の中で
貴族が乗ってきた馬車に手足を拘束されて乗せられている。ここ来るまでに乗ったキングは離され森へ入ってしまった。着いてくるかもしれないと思ったが、姿は見えない。
「本当にお一人で来ていただいてよかった。でなければ、罪のない子供を手にかけてしまうところでした」
ダイア・アカバが静かに言う。少し前まで前の席で横になり眠っていた相手だ。ここへ来るまでに馬を無理な走らせ方をしたのは事実らしい。
何が目的だと言いたいが、轡を噛まされているので文句も言えない。それに理由は想像がつく。
「あなたが指示に従ってくだされば、ご子息には危害は加わらないと保証します。定期的な連絡が途切れた場合、何年かかろうとも殺害するように指示をしています。もちろん、私の目的が果たされた後、それらは永久的に解除し、エラ様もジェゼロへお送りいたします。神の国であるジェゼロと問題を起こしたいのではありません。ただ、助けていただきたいのです。神の国を信仰するローヴィニエはジェゼロの属国のようなもの。どうか、正常な国になれるようにお力をお貸しください」
身動きどころか口論さえさせない状態で女がすらすらと喋る。
聞きたいことも罵り言葉もいくらでもある。浅はかな自分に対しても忠告してやりたいがもう無理だ。




