白紙の文
ダイア・アカバは派手な見た目に女らしい体つきのまさに女王といった風体をしていた。女王が渡してきた書を持って部屋へ戻る。ユマはいつものように王の応接室でリセと遊んでもらっていた。かわいいことに変わりはないが、今は見ると寂しくなる。
「先に私が確認いたしましょうか?」
オオガミがそこそこ使えると連れてきた中年の女が問う。毒の類を警戒してのことだ。
「いや、いい。それよりも茶を入れてくれ」
仕事はできる。どこから連れてきたのかよくこんな人材を直ぐに見繕えたとオオガミには感心するね。あれは人を見る目があると思っていたがここまでとは。それに、国王付きほどは気が利かない。いや、あれの穴を埋めるとなれば一人二人では済まない話だ。
いつも飲む茶と同じものを使っているというのに、あまりおいしくないそれに口を付ける。こういうことは自分でするか別で雇う必要があるようだ。
一息ついた時に、ガラスの割れる音がした。とっさに立ち上がり執務室から続く応接室へ入ろうとしたとき、止められる。明らかに隣の部屋の窓が割られた音だ。
「安全が確認できるまでお待ちを」
「馬鹿を言うなっ」
押しのけて部屋に入る。既に廊下から兵が入っていた。
「ユマっ」
悲鳴に近い声を上げていた。夕日が差し込む部屋に赤子の泣き声が響く。
「大丈夫です。ユマ様はご無事です」
リセが言う。その手からは血が流れていた。
「陛下、危険です。窓から離れてください」
無視してユマを抱え上げ、抱き寄せる。
自分の足元に、見慣れない物が落ちていた。それは一本の折れた矢だ。ユマがいた場所からそうは慣れていない床に落ちていた。それに紙が巻き付けられている。その卵色の紙に見覚えがあった。
「リセの手当てを頼む。エユ達を呼んでくれ」
そう指示をして、ユマを抱えたまま部屋に戻った。
「………」
開けていなかったダイア・アカバの書を開く。一枚目には一人で見る事を強く勧めると書かれていた。二枚目にはダイア・アカバを殺してもユマ・ジェゼロの命は狙われ続けると書かれていた。三枚目には、日が昇るまでは待つと書かれていた。
「エラ様」
「入るな」
紙をぐしゃりと握りつぶす。泣くユマを強く抱き寄せる。
「許さない」
小さく呟きが漏れた。