書
ジェゼロの城は玩具のように小さい。別荘だってこれよりもマシな作りだ。だが、ここが世界の中心と言われている。
通された部屋でしばらく待たされた。ただの貴族ではない。一国の王となれば数日待たされることはなかった。
「お時間を頂きありがとうございます」
入ってきたのは老練の男と自分と年の近い女。それに若い女が一人。エラ・ジェゼロは最後に入室した女だ。黒髪に緑の瞳をした美丈夫な風体。服装はいたって簡素だ。
「話があると聞いた。国を追われたようだが、先に援助などはできないと断っておくぞ」
応接室にしたって質素で狭い部屋だ。一度立ち上がったが、向かいにジェゼロ王がかけると座るように手で促す。それに従い腰を落ち着ける。
「できれば二人きりでお話しを」
「残念だが、国王かどうかもはっきりしない立場の者と二人きりで話す気はない」
尊大な王だ。だから若くして権力を持つのはよくない。
「陛下にお力をお借りできればと命からがらここまで逃げてまいりました。何も持たず三日三晩寝ずにたどり着きました」
時間との勝負だ。長く国を開ければ混乱が起きかねない。ナサナ国が攻めてくる可能性もある。自分は今、この傲慢な王の力を借りる必要がある立場でなければならない。
「エラ様が同じ目に合われたように、私には他国の手助けが必要です」
公になっていないが、一度は国を追われた王だ。
「ただ、この書に署名を頂ければ。神聖なジェゼロ国が私を王と認めると書いてくださればいいのです」
一通の書を差し出す。
「……議会院で精査いたしますが、ご期待は」
横の女が受け取ろうとする。その手には渡せない。
「ジェゼロ王にのみお見せできるものです」
「……確認後議会院に回す」
「承知しました」
エラ・ジェゼロが書を受け取った。
「必要であれば部屋を用意させよう。返事は後日となるだろうからな」
「検問場に私を助けた者たちが待っております。今夜はそちらで待たせて頂きます」