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国王陛下育児中につき、騎士は絶望の淵に立たされた。  作者: 笹色 恵
~女王の計略~

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ローヴィニエについて 前

   十二



 ローヴィニエは三つ巴で成り立つ国だった。三つ足の椅子の一つが短くなったのが事の発端で、今では別の足が折られてしまった。

「ダイア・アカバ氏のアカバ家。エリザ・バジーのバジー家。それに今回王座を手にしたのはイセ家です」

 コモがやってきて説明する。最近までいただけに内情に詳しい。それに歴史学を愛好する癖がある。特にジェゼロの歴史が好きで安い賃金で城抱えの歴史学者をやっている。他国に行けばその国の内情や歴史を根掘り葉掘り調べるのが当たり前と考えている変態だ。今回はそれが役に立った。

「ご存知の通りバジー家はもう一家断絶して最後に血の繋がらない御婦人がいるだけです。五年ごとに王座を変えるのがこの国の特徴で、前回の王はバジー家でした。エリザさんの夫が王座についていましたが、任期を終える半年前に急病で亡くなられ、次に王座に就く予定だったアカバ家の当主だったダイア氏が予定よりも早く王座に着きました。今回、イセ家がダイア・アカバを引きずりおろしたのはちょうどダイア氏が王になって五年たったからだと思われます。ただ本来は決まった日、建国の日に変わるものなので意見の食い違いは就任当初からあったようです。バジー家は終焉する公爵家と言われていますが、その実、アカバもイセも共に終わりが見えている家系でもあります。アカバ家のダイア氏はまだ三十代ですが、過去の出産で死産を経験しその後子が出来ぬ体になったと言われています。あくまでも噂であり真偽はわかりませんが、もし事実であれば、アカバ家も血が断たれることに。というのも、ダイア氏には兄が二人いましたがアカバ氏が王に着く前に共に亡くなっています。従兄は存命ですが高齢で子孫を残せる者はダイア氏だけだったからです。それに、イセ家。こちらは華々しいアカバと違い、とても薄暗い家系です。近年は血を重んじ過ぎた結果血族間の結婚が当たり前になり……ジェゼロのような近親結婚による子への影響が考慮されていないのでしょう。結果遺伝的な病を患うものが多発。今回王座に就いたクロト・イセ氏はこれまで城から出た姿を見たことがないと言われるほど病弱だと言われています。このクロト氏、イセ家は悪魔を産んだと言う噂が流れるような人物らしく、クロト氏の父親が郊外の別荘に療養の名目でずっと軟禁していたようです。実際悪魔がいるかは別にして、悪魔のように禍を呼んだのは確かです。ちょうどローヴィニエにいたころイセ家の葬式が何度もありました。クロト氏は一人っ子ですが愛人の腹違いの兄弟が何人かいて、そちらから正式に養子として迎え入れる話になっていたようですが、全員が不自然にも流行り病でなくなりました。イセ家の直系筋はクロト氏とその父親以外存命していない状態。若いクロト氏は跡継ぎを作れるかもしれませんが、遺伝的に弱く次も血の近いものとの子となれば更に弱い子供になる可能性も大きいでしょう。バジー家が自分を引き取りたいと言う最大の理由は正式な直系でないにしろ、正式な分家の直系ならば神の儀式で認められる可能性が十分にあるからでしょう。ああ、そうそう。三公爵が順に王になるのは独裁をさせないためでもあるのでしょうが、ジェゼロと同じように神が認めた者たちだからという意味もあります。三つが揃わなくては神の声が聞けならしく、これまでは出し抜いたり裏切ることなく五年ごとに王座を譲っていたようです。まあ、十年経てば権力が戻ると思えば、それぞれあまりにも酷い政治はできませんから。周りの貴族も、権力がいずれ戻るとわかっているので三公爵の王でない間もないがしろにはできませんからね」

 コモの長い口上が終わる。貴族の家に入っていただけに庶民が知るよりも詳しい事を調べてきたようだ。

「改めて、オオガミとハザキの友人になれた理由を理解した」

 呆れて言うとハザキがいつもに増した渋面を作る。

「つまりは死に体の国ってわけか。まあ、その制度が終わればナサナみたいに別の国になるんだろうけどな」

 オオガミが言う。

「そこにロミアがいる可能性があると?」

 オオガミに問う。

「仕方ないだろ。師匠の行動制限までできないからな」

 オオガミはオオガミだ。自由人の制限も難しい。


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