星の知らせ
ベンジャミンはいつになく丁寧だ。
「指示通りに組み上げは済ませました。ロミア様のいない状況でよろしかったので?」
オオガミに対しても丁寧にベンジャミンが問う。つまり、感情全てを沼に沈めていると言う事だ。エラから国王付き解任は聞いた。理由は必要なくなったからだと言う。とりあえず仕事だけはできるやつを代わりに置いておいたが、これの代わりにはならない。
「……いや、ロミアがいつ帰ってくるかもわかんねーから。それに、あっちの実験結果も気になるからな」
ジェゼロを象徴する湖にある孤島。そこにある時計塔に機械を組み上げた。ここが立ち入り禁止区域であることと、地下から物を運びやすい事。それに開けた場所の中で高い建物だからだ。
「神官様のように、ジェゼロの神も早くお戻りいただければいいのですが」
一年近くロミアと自分の御守りをさせられていた。実際、これがいると物事がよく進む。帝国との交渉や手伝い、帝王の相手、そつなくこなしてジェゼロの利益を確保できる。学校の知識以上の事は俺が育てたと言ってもいいが、要領のいい生徒はエラに対してだけはどこまでもポンコツだ。どうせしょうもない事だろうが、国王付きを外すというのはエラに何かしら決心があっての事だろう。ハザキとエユが二人の関係をよく思っていないと言いながら、引き留め内々にするさまは中々興味深いが、このままこじれたままだと本当にベンジャミンが国王付きを外されかねない。そうなると、帝国に赴任させた原因たる自分が最終的に切れたベンジャミンに闇討ちされるだろう。
丁寧なベンジャミンはぶち切れる前兆だ。
「あー、あのバカな元議会員、死刑にしても良かったんだぞ?」
「……ああ、犯人を捕まえ損ねる危険を冒したことを思えば、それでも妥当でしょう。決めるのは議会院の仕事、自分は興味がありません」
犯人に仕立てられかけたとは思えない反応だ。いや、こいつにとっては自分を誘拐犯に仕立てようとしたことは本当にどうでもいいんだろう。
「電源を入れても?」
「あ、ああ。問題ない」
確認をし終えて声をかけ忘れているとベンジャミンから問う。
オーパーツ使用の法律は大詰めでほぼ決まった。今後少しずつ使用と運用が始まるだろう。だがまだ締結はしていない。だからこそ、姑息な帝国は自分の力を最大限に発揮できるものを先に打ち上げようとしている。それを止める事はジェゼロの権限ではできない。それに、ロミアも一枚噛んでいる。おまけに成功するまで機密の誓約書を書かされた。従う道理はないが、ロミアがいいと言うから従っていた。
「起動は正常ですね。機器の組み上げはできますが、プログラムはまだあなたほど知識がありませんので」
「それなら案外エラの方が上になるかもしれないな。あいつは……」
にこやかな顔がさらに張り付いたような笑顔になる。
「……まあ、ここまでやってくれりゃあ十分だ」
何があったかは知らないが、未だにこいつがエラ・ジェゼロを愛好しているのは変わらない。エラも、ベンジャミン以外を好きになったわけでもないだろう。
「そういえば、第二巫女様に文の一つも書いていないので?」
「あ? あれとはそんなんじゃねーよ」
「そんなのとは?」
とぼけた顔で問われる。
「お、ちゃんと動いてるな。後は向こうの実験が成功して情報が送られるのを待つだけか。予定だと明日の朝くらいか?」
「天候によるので前後するとは言われていました」
「あと、あれだ。勘違いしてないだろうな、ユマはお前との」
「知っています」
淡々と言葉を制して返される。
「お前を帝国に連れてったのは悪かったと思ってんだ」
エラは妊娠中かなり危ない状態もあったと聞いた。エラにもそれを世話できなかったこいつにも無論悪い事をしたとは思っている。
「珍しいですね。他人を気にするとは。ですが、謝罪の必要はありません」
いつものベンジャミンならば、わかっているなら相応の働きで返せと言いかねない。やはり、今のこいつの精神は死にかけだ。これはまずい。
「帝国に行ったことで知識と技術は、得る事が出来ました。それは今後の世界を見越せば価値があったこと」
ベンジャミンが機械のモニターへ目を向ける。
前時代に比べればこんなものはまだおもちゃのようなものだろう。だが、それでも画期的なものだ。この三百余年、電気を使った機械が封印されていたようなものだ。これからはずっと便利な世の中が来るだろう。
例えば、手紙が一瞬で届く世界だ。
「今日は向こうの天気が良かったようですね」
画面にいくつかの手紙が届く。
「衛星の打ち上げは成功か。どうせならエラに見せてやりゃあ良かったな」
何気なく名を出してしまったが、次はベンジャミンが固まる事はなかった。
「そうですね。ですが、それよりもこの内容をお知らせした方がいいでしょう」
画面上の手紙の一つを開くとローヴィニエ女王崩御と書かれていた。




