バジー公爵家の使者 3
問われ、膝の腕の拳に力がこもる。
「バジー公爵家が復権を果たせば、現在の女王陛下に物申しができない現状が変わる事は確かです。公爵家から次の王を選定する決まりがあり、貴族は誰を推すかどの派閥に所属するかを常に考えています。我々は謂わば現国王の船に乗りそびれた身ではありますが、何も乗船ができなかったわけではありません。その政治手腕に不安があったのです。現に権力が集中し公平な社会秩序が乱れております。ジェゼロ国におきましても、複雑なご事情がある事かと存じ上げます。自国の今後の問題は我々が担いその後ご迷惑をおかけいたしません。これは、悪くないご提案かと」
その言葉で王が目を細める。
「ハザキ」
名を呼ばれたのは手前の気難し気な男だ。小さく会釈を返した後、こちら、正しくは周りの兵に目を向けた。兵が深く王に頭を垂れた後、後ろのドアからすべて下がる。
「これよりは腹を割った話をしよう。そちらも不要な者には引いていただこうか」
先ほどよりも声色高く王が言う。フュルス侯爵が後ろの三人に引くよう合図を送る。
随分とがらんとする。身を守る者もなく、王の機嫌を損ねたと切り捨てられても不思議はない。なにせ相手はあのジェーム帝国までが首を垂れるジェゼロ国の王だ。
「コモ、出てこい」
言われて、王が出てきたのと同じ場から男が出てくる。ひょろりとした中年で、ここにいる人々のような雰囲気もなくのほほんとした気の抜けた風貌だ。
「先に言っておくが、コモ・バジーひとりそちらの痴呆老人の世話係に送ってやってもよい。だが国民を他国に売ったとなれば私の名に傷が付く」
「では、御本人の意思で来ていただければ」
フュルス侯爵が慌てて乗る。
「いえ、自分はジェゼロの生活が好きなので」
「ローヴィニエへ来ていただければ、好きな事だけして生きていただいて結構です。雑務等は家人が行います。何一つ、コモ殿に悪いお話ではございません」
「はは、流石に僕もそこまで阿呆ではありません。それに、エリザさんにお世話になっている間話した事はほとんど嘘っぱちですから」
「では、ジェゼロ王族の方と禁断の恋仲であるというのも……子がいると言うのも嘘で?」
ぶふっと、手前の大柄な男が噴出した。
「失礼」
すっと顔を真顔に戻すが他のジェゼロの方は表情すらない。
「そこに関しては完全に妄想というか、悪ふざけでして。別に自国だから口にできないとかでは一切なく。完全にない話を吹聴してしまって、流石に処罰を受けそうで、ほんとうに、すみません」
親子ほど年の差のある王に対してコモ殿が頭を下げた。
「そういうわけだ。わざわざ来てもらって悪いが、自国の問題は自国で解決してくれ」
それでは困る。
「では、他のバジー家の方とお話を」
エラ様がエユ・バジー議会院長へ視線を送り、エユ・バジー殿が口を開く。
「ジェゼロに移り住んだバジー家はそのコモ・バジーの母と、私以外にもう居りません。私は子を産むには少々歳をとっておりますので、どうせ一代限りになるでしょうし、親愛なる陛下の許を離れ、他に国に赴くなど一縷も希望いたしません。すでに私たちはジェゼロの国民。それを違え、国に連れ帰ろうなど、正直に言わせていただいて、礼儀を知らないばかりか育ちを疑います」
涼やかに美人は言う。やはり彼女もバジー家の人なのか。それにしても、親類にしても随分見た目に差がある。美麗があっても頭のできが悪ければ問題だが、議長となれば相応の地位と知識人であろう。




