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国王陛下育児中につき、騎士は絶望の淵に立たされた。  作者: 笹色 恵
~女王の計略~
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解任


 リー・ヒラソルにまた子守りを頼みたいという名目で連れ出し、牢へ入れる様に指示をした。確保後、毒草に対して知識がある者で厨房とヒラソルの家を捜索させた。

 あの男、ルネト・ハンミーは昏睡状態と聞いていたのだろう。いつもと変わらずに仕事に来ていたと聞いた。図々しい女だ。ユマ様が攫われかけたあの日、ユマ様をみていて襲われた女が犯人の一人とは。しかも、その者がいる厨房で変わらずにエラ様の食事が作られていたことに吐き気すらする。

 リセ・ハンミーについての聴取は一通りが済んでいるが、再びユマ様の子守りをさせるのはリスクが大きすぎる。どこまでが偶然か。現に他国からの書簡を盗み見ていた。リセを雇うに至った経緯は、その場にいた行商の夫妻にも聞いている。その夫婦にはベンジャミンも昔世話になった。男は武骨で無口だが嘘をつくような者ではない。リセが酷い労働条件で働いていた宿についても調べたが、悪徳だが極悪というほどではなかった。最寄りのない女を小間使いに利用していたと話している。ただ、もう少しあそこに長くいれば、今頃娼館にでも売られていただろう。実際、あそこで働いていた女がいなくなる前にその手の行商が寄っていた。いわれのない借金返済の為に売っていた可能性については管轄のナサナ国へエラ様の許可を頂き通報している。双子の二人が助けると言いださなければ、そもそもジェゼロに入れはしなかったろう。いい子守りが見つからなければ、外部のよくわからない相手を城の子守りになどするはずもない。そこまでの偶然を待つにしては妙だ。実行犯の男は手引きされてジェゼロへ入った。それを思えば、そんな遠回りに行動せずとも、ジェゼロに入国できただろう。

 偶然だったとして、リセ・ハンミーは何かをまだ隠している気がした。それが何か、明確にはわからない。

 しばらくして寝室から戻られたエラ様の目が微かに赤い。その理由を一巡するが思い当たらない。

「リー・ヒラソルは捕らえたか?」

「現在尋問を行っているところです」

「そうか」

 城内の者が犯人の一人とわかり、エラ様がうなだれる。誰よりも優しい方だ。お辛いだろう。

「リセにはこのまま子守をしてもらう。オオガミに検査を頼んでいるから時期に血縁かもわかるだろう」

 地下のオーパーツを使えば血筋が辿れることは承知している。

「直系であった場合は、いかがするおつもりですか?」

 女性の直系であれば、エラ様にもしもの事があれば王になれると言う事だ。絶対にないとは言えない。そもそも、神が起きた今、女性でなくとも、直系でなくとも受け入れる可能性がある。

「その時は、全て任せて引退するのもいいな。いっそ、代わりがいてくれればな」

 冗談のように静かに言う。

「……エラ様」

 とても疲れている事は自分でなくともわかるだろう。

「ベンジャミン、すまないが国王付きの任は解かせてもらう。勝手な話だがオーパーツの兼もある。しばらくはジェゼロで仕事を続けてはもらいたい。希望するならそのままジェゼロに居てもいい」

「は?」

 唐突過ぎる言葉に一瞬理解ができなかった。

「決めたことだ。これまでご苦労だった。仕事に付いてはエユを交えて正式に話をする。それと、今の部屋も離れてもらう」

 晴れやかと言ってもいいような、何か吹っ切れた様子のエラ様が言う。

「先ほど、陛下のふりをするような無礼を働いた事は」

「ベンジャミン。いままでありがとう。もう下がっていい」

 最後通告に唾を飲んだ。

 例えユマ様が自分の子であったとして、どうしてエラ様は知らせて下さらなかったのか。慈悲深いエラ様だ、その身に宿した命に責任を感じていたとしても、本心で望んでいなかったのではないか。だから、ああも早く帝国へ行かされたのではないのか。

「失礼いたします」

 深く一礼し、陛下の部屋を後にする。速足で城を出て、馬小屋から出てきた兵に急用だと嘯き鞍の付いた馬を奪い走る。夜の冷えた風が顔を過ぎていく。それが鋭く痛みすらもたらす。狼の森の中、誰もいないその場に着てようやく声を上げ泣くことができた。

 一度目は親に捨てられた。育てる気のない者に殺されるよりも、ジェゼロの血に捨てられたことを感謝すると、そう思うことに偽りはない。そう言って、それが辛くないふりをしても消えぬ傷のように残っている。だがその痛みも、自分の唯一の神に捨てられるよりは余程優しい苦しみだ。

 ああ、自分はまた捨てられたのだ。




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