誘拐犯の話 4
「そんなはずがない。リラ様は女だから王になれぬと国を出たと聞いた。なのになぜ女が王になっている」
繋がれているのも忘れ、立ち上がろうとして縄が張り詰める。それに驚いてルネト・ハンミーは自分の手を見た。薬の副作用か、自分の現状把握が正確にできていないようだ。
「お前がいた村はラトケの村か?」
「そうだ。だから何だと言うのだ」
「リセ・ハンミーは知っているか?」
問いに対して興奮した男はもう一度腕を振り上げる様に伸ばした。
「どうして従妹を知ってる! リセに村にまで手を出したのか!?」
「……」
一度ベンジャミンの方へ視線を送る。最悪、リセがユマを誘拐する実行犯かとも考えたが、この反応は全くの偶然か。
「ローヴィニエの女王はお前に何を約束した」
「一座の命だ。あいつらは家族なんだ。俺の家族なんだ! 俺がそいつを連れて行かなきゃみんな殺される。俺が喋ったなんて知れたら……」
薬が効きすぎると感情の制御が効かなくなるものらしい。口にして、はっと驚愕する。自分が今それを、禁忌を犯したと気付いたようだ。
「村の事は、何も言わなかったのか?」
「言ったさ。そうすれば、助けると言われた。なのに、言ったのに、ずっと閉じ込めやがって、次は他国の子供を攫えと命じられた。あいつらは逃げてよかったのに、一緒にこんな悪事に加担して」
「捕らえられたのはどれだけ前だ?」
「……何年も前だ。最近になって解放してやる代わりに命令を聞けって、なあ、皆は、あいつらは無事なのかっ」
おそらく、その後リセの村が襲われたのだろう。三年近く前の話だとリセは言っていた。
「それで村はどうなった」
「どうかなるはずがないだろう。あそこは神に守られた場所だ」
声にユマが目を覚ました。赤子に対して場を弁えろと言っても聞けぬこと。むしろ、今手元になければ不安で直ぐに戻っていただろう。
「事は国家間の問題かと」
ハザキを見れば静かに告げる。
「だが証拠がこれだけではな」
薬の効果で謀りができるとは考えにくいが、妄言にならぬとも言えぬ。何よりもこれが自分ならば、薬を使われたとしても謀る事は可能だと言える。毒に強い家系であることは古き昔からの事だ。リセの言うリラ・ジェゼロの末裔ならば可能性はある。この自白もそうだが、彼らとローヴィニエ公国とはそれまで直接かかわりがないようだ。無関係な者を利用したのは捕まり断罪されても知らぬ存ぜぬと言える。人質は殺して埋めればばれる事もなくなる。
「引き続き、この者の管理を徹底しろ。うっかり死なせるな。ベンジャミン、すぐに知れ者を捕らえよ。家屋の捜索も忘れるな。できる限り内密に行わせろ」
自分から可愛いユマを盗もうとしたのがよそ者ならばまだ許せる。だが、それが近いものならば到底許しを与えられるものではない。
「女が偉そうにっ、これだから女は王に向かないんだっ」
吐き捨てた言葉に少し笑ってしまう。薬の効果で素直に話しているとして、それは本人の主観だ。謀りを混ぜている可能性もある。




