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国王陛下育児中につき、騎士は絶望の淵に立たされた。  作者: 笹色 恵
~女王の計略~

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誘拐犯の話 2

「お手数をおかけいたします」

 ハザキは実質医務室で暗殺を阻止するために駐屯していた。食事も婦人が毎食持ってきている。物静かで芯の強い女性で、まさにハザキの伴侶といった人だ。

「ああ、ご苦労だった」

 返すとハザキが腕の中のユマをちらりと見た。何も赤子が可愛くて見ているわけではないだろう。この場には相応しくないとの意味だ。

「……」

 視線でベンジャミンにお前が預かれと言っているが後ろに控えるベンジャミンはできないと示したのだろうハザキが渋面を作る。

「こちらへどうぞ」

 ユマが眠っているのを見て診察用の寝台を示す。ハザキが唯一診れぬのは赤子だ。

「抱いていてもいいだろう。それよりも」

 はやく会わせるように指示する。ため息交じりに、ハザキが奥のカーテンを開けた。しっかりと手足をベッドに括りつけられた男がこちらを見ていた。

 何もできぬその男の頭の上に重い花瓶を打ち付けたくはなるが、堪えることとした。

「あなたがジェゼロ王か」

 昏睡していた男は思いの外はっきりと口を開くが、その視線の先にはベンジャミンがいた。

「……どうぞ、陛下」

 一瞬眉間に皺を寄せたベンジャミンに対して、そう声をかける。ジェゼロ王としか知らなければ、男と思うか。まして赤子を抱いていては王に見えなかったか。その程度しかこれに情報が行っていないということだろう。

「まずは、名を名乗れ」

 茶番に付き合うと決めたらしいベンジャミンが一歩前へ出ると声を低くして問う。殴りかかったのは一瞬で顔を把握できていなかったろう。それに、ベンジャミンに命じられたと言いながらこれを王と間違えるからには、やはりトワスの浅知恵か。

「ルネト・ハンミーと申します」

 その名前に二人も内心で疑問を呈しているだろう。

「ルネト。トワス・コナーが毒を盛ったと自供した。それに関しては謝罪しよう」

 ベンジャミンが早々に嘯く。

 自分がベンジャミンを陛下と呼んだことですべての質問権をベンジャミンに投げたようなものだ。一歩引いて手並みを拝見する。女と言うだけで見下す輩もいる。

「ユマ・ジェゼロを攫うことに加担したこと、間違いないな」

 厳しい面持ちでの問いに男は小さく頷いた。

「虚偽がないように、それぞれの話を聞いている。順を追って話せ」

 オオガミの脅し文句は先に確認している。別に二人が捕まっている設定らしい。下手に話してぼろが出ても困る。

「旅一座の一員として、芸事を見せて街々を渡り歩いておりました。村に伝わる神話を思い出し、それで戯曲を作り、演劇の一つとして公演をしていました。それを観たダイア・アカバ女王陛下に呼ばれ……詳しい話をするように言われ」

 一度つばを飲み込み、迷うように視線を泳がせる。

「二人は、無事なんですか?」

「……ハザキ。茶を出してやれ」

 答えずに、ベンジャミンが偉そうに命じる。ハザキは表情を変えずに一礼すると言われるままにポットから茶を注ぎ、男の傍に置いた。両手は別に拘束されていて、右手だけは左手や足の枷の拘束に届かぬ程度に余裕がある。

「少し落ち着いて話すとよい。案ずるな、毒など入れていない」

 誰を真似て喋っているか聞くまでもないが、許可を出したのは自分だが、その物真似に妙にイラつく。

 言われるままに茶に口をつけた男はのどを潤し一息ついた。いっそ毒ならばそれでもいいと考えているのかもしれない。

 少しの間、カップに視線を落としていたが、もう一口含むと、元の場に戻した。

「どうして、ユマ・ジェゼロを攫うこととなった」

 改めてベンジャミンが問う。


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