リセの危惧 中
静かな声に振り返るとベンジャミン様がいた。ドアが開く音はしなかった。気づかなかっただけかもしれな。この人を、たまに得体が知れないと思う。
「その」
言い訳をしかけて口元に指を当て静かにするように指示される。
「エラ様が寝ています」
「……」
言ってからソファの横に置かれた毛布を持って一度応接室へ戻ってしまう。直ぐに帰ってくると執務机の上の物に目を落とす。
「アビリオはローヴィニエにも近い土地でしたね」
静かな問いに頷くほかなかった。
「ローヴィニエ公国に何か興味が?」
促されて戸惑う。この人に言ってしまったら、きっと自分は国から追い出される。彼は国から逃げたエラ様を唯一人で守りぬいた。騎士の称号を持つ男は、ジェゼロ王に忠誠を尽くしている。もし、またその悲劇を繰り返すかもしれないとなれば、闇に葬るだろう。
「随分と汗を掻かれていますね。ユマ様を少し預かりましょう」
伸ばされた手に自然と一歩下がっていた。
「どうしました?」
きっと知っている。なぜかそう思った。
伸びた手にこれ以上抗っては怪しまれる。
「ユマの子守りはしなくていいと、言ったはずだ」
自分がびくりとした時と同じように、ベンジャミン様が肩を震わせる。エラ様が気だるげなまま、それでもはっきりと言った。
「リセ、どうした?」
眠りが浅かったのだろう。それで助かったと思う。
「出身国の近くにローヴィニエがあるので、それについて聞いておりました」
どこか他人行儀にベンジャミン様が言う。それにエラ様が冷ややかな一瞥を投げた。
「下がっていろ」
初めて見る高圧的な声で命じる。何も言わずベンジャミン様は後ろへ引いた。
「ろ、ローヴィニエ国に、いい思い出がありません。その、もしも、来るのならば、私はその間お休みを頂けないでしょうか」
なんとかそれを口にする。
「……リセ、座って話をしよう」




