受け止めきれない事実 後
「お前のところのと?」
「あっ、この場合敬称付けるとまずいだろ」
こそっと声を潜めてい言うがそれに腹立たしさが沸く。
「ユマ様は俺の子じゃない」
「ああ、そういう設定だろ。俺も大人になってんだからわかってるって」
「何を」
「? お義母さんが随分心配して、お前を呼び戻してはどうかと打診してたんだぞ。何度か流産しかけたみたいでな。もしもの事を考えたら、エラ様の傍にお前がいた方がいいって。胎児の育ちも悪くて、通常の産期よりも長引いたのにそれほど大きい子でもなかったし。まあ、ジェゼロ王の血は健康で強いものが多いらしいけど、難産の家系であのサウラ様でもエラ様を産むときに実際は死にかけたらしいし。母子ともにもしもの事があったらって、親父さんと夫婦で大喧嘩はじめて、態々止めに行ったからまあ知ってんだけど。あの二人が喧嘩するとこなんて初めて見たぜ、あの超が付く温和なお義母さんが怒るとマジで恐ろしいな」
馬小屋でまた倒れそうになっていた。回らない頭で計算する。足し算すらうまくできない。
「……」
柱に傾ぎ倒れそうになるのを、踏みとどまる。
自分はエラ様になんと言った? 警護を考え、父親を知らない事は不利益だと思った。子の親ならば、初めから自分の手に入らないとわかっていても、その子を奪いかねない。コモ・バジーのような外部の権力者とつながりがあっても問題になる。そう思った。それを知っても、怒りに任せて殺してしまわないと思えるようになったのもある。そう、自分はエラ様の裏切りを解いたのだ。それだけではない。自分が他所に女を作ったから当てつけに別の男を閨に入れたのかとまで口にした。あの調査書が届くころには、当に妊娠がわかっていた時期ではないか。そんな事すら判断できなかった。
自分が帝国へ行かされたのは、帝国の神域に入る事を一度は許され、それだけの信頼を帝王からも受けていたからだ。それに、オオガミやロミア様に引かずに物を言えるからだ。二人の調整役と補佐役として、仕方なく選ばれた。国に戻り間もない時期で、それでも国益のためにとエラ様に命じられた。出発前夜に交わしたのが最後の口づけだった。
どうして、自分は、エラ様が裏切るなどと思ったのか。少し離れただけで心変わりをされるような方だと思ったのか。
「おーい、おまえ本当に大丈夫か? 医務室にいくか?」
耐えられずその場にへたり込む自分を覗き込んでホルーが軽い調子で心配して問う。
「俺は、だめかもしれない」
「なんだ? 大病でも患ったのか?」
ある意味でそうだ。
エラ様に想われる自信がなかった。捨てられた子供が尊き方の傍にいられるだけで満足すべきだと。ずっと前から、患ってきた。
「嘘だろぅ」
ユマ様が、エラ様がお産みになられた子が、自分の息子でもあるなんて。それを信じる事が、考える事すら、できなかった。
ユマ様を初めて見た時よりも、胸が苦しい。




