受け止めきれない事実 前
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議会院でひとまず3つの事が決定する。
3日後にローヴィニエ国の面会に応じる事。
混乱を招いたコモ・バジーは一時謹慎とし、身柄を城内で管理する事。
オオガミが人材育成を担当し、トワス・コナーに変わり臨時の議会員の席につく事。
最後の一つは揉めるかと思ったが、狼犬の飼い主ではなく知識人としてオオガミが席に座った時点で事は決まっていた。まともな口調で話せば誰一人口論で勝てる訳もない。
結果、概ねエラ様の予定通りに事が決まる。トワス・コナーに関しては男が証言できるようになるまで、内密にするように話を合わせている。男が目を覚まさなければ、もうしばらくローヴィニエとの面会も伸ばす予定だ。ユマ様を寄越せなどと言う無礼を平気で言う相手ならば、直接頼む前に攫う計画を立てていても不思議ではない。
部屋にもどってから、いつものようにエラ様の執務を手伝い、しばらくして別件の職務の為に部屋を出た。昨日の宣言通りに、ユマ様をみることは許されていないが、今回の会議で国王付きを外す正式な表明もされていない。
トワス・コナー元議会員とエラ様の会話は盗み聞いていた。わざわざ自分の同席を拒否するからには、何かあると案じての事だ。
エラ様は質の悪い相手にばかり好かれると再認識した。トワスの言った言葉で子守をさせないのではないとわかってはいるが、それでも頭の隅に残る。帝国で女を作ってきたと、疑われていたのかと思うと、身勝手にも怒りを覚えた。エラ様が自分に対して何かを返す必要などはない。エラ様が誰を閨に取ろうとも咎める資格も意見する権利もない。ただ、信頼だけは、せめてそれだけは揺るがないと思っていたかったのだ。
「またぶっ倒れるのか?」
城外へ出ていたので馬を返しに馬小屋へ寄れば、ホルーが呆れ気味に言う。
「なんだ? エラ様と喧嘩でもしたのか? お前が体調を崩すってなれば、エラ様関係以外ありえないしな」
軽い調子の言葉に返す気すら起きない。
「そういえば、オオガミさんに家を返した方がいいか聞いといてくれよ。うちのと二人目をどうするか考えててな。俺は、もうちょっと間を開けてもいいんじゃないかって言ってるんだけど、歳喰ってからは子育てよりも老後は好きに生きたいからって。まあ、ああいうのは女の意見を聞いた方がいいだろう? 馬の移動もあんまりできなくなるから、町でしばらく暮らしてもいいって話で、狼犬の世話は続けるけど、やっぱり犬どももオオガミさんが来るとすげー喜ぶし」
ぺらぺらと喋る男にため息が出そうだった。そうだ、エラ様は少なくともあと一人、女児をお産みになる必要がある。今はまだユマ様が幼いが、閨を呼ぶのはそう遠い事ではないだろう。一度で子が成される訳ではない。何度も自分はそれを見ないふりをしなくてはならない。そう思うと、国に戻り始めてユマ様をみた時と同じ重いものを感じた。この調子ではホルーの冗談ではなく、自分はその時にまた倒れるかもしれない。
「今からじゃお前んとこのとは同学年にはなれないだろうけど、その方が楽だろうって。まあ、嫁に似れば進級は早いだろうけど、俺に似ると落第の可能性もあるからな」
豪快に笑う男の言葉が頭をすり抜けるが、何かがつっかかり戻ってくる。