王からの依頼 後
エラ様がオオガミに視線を変えた。
「今のジェゼロに足りないものが最近浮彫になって困っている」
「人だろう? サウラは必要十分の信頼できる相手だけで国を動かしていたからな」
直ぐに返した答えにエラ様が頷く。
「今は大した仕事もなくて飽きが来ているんだろう? 帝国に行ってもいいが、その前に一つ仕事をしてくれないか? 結果さえ伴えば過程や選別には極力口出しはしない。それとも動物は扱えても人を育てるのは苦手か?」
エラ様が前国王から継いだのは王位だけではない。信頼できる家臣も同様だ。この場にオオガミを呼んでいたのはこの為か。むしろ自分の話がついでなんじゃないかとすら思う。その話にエユの顔が少しだけ強張った。
「捨てたとはいえ、お前の伯父だってことは忘れてないよな?」
「私が王として正しくないと思えば、地位を奪ってくれても構わんが、そんな面倒くさい事をして得たものでも、長く飽きずにいられるほど堪え性があるような伯父ではないとよく知っている。オーパーツの知識もそうだが、他の知識でも国の中で随一だ。好き嫌いは激しいが人を見る目もまああるだろう。帝国に行って、手駒が多いと面白みがある事は肌で感じてきただろう?」
それこそ親子ほどの差のある男相手にエラ様が言う。本当に、国王らしくなったというか、国の事を考えるようになられた。
「学校の先生になれって? この俺に」
「それもいいが、役職は適当につける。適材適所で引き抜いて、必要と思う人材を好きに教育していい。必要な分野も人数もな。財源は次の議会院で決める。いくら引き出すかもオオガミの裁量次第だ」
「見合った給与はもらうぞ?」
「ああ」
よく似た顔で二人してにやりと笑う。トウマ・ジェゼロが王様になっていたら国は随分変わっていただろう。けれど、今のトウマ・オオガミはそんなものよりも自由を求める。だから結局王様なんてなりはしないだろう。
「ローヴィニエへの対応は明日の会議を踏まえ考えよう。コモについても同様だ。事の顛末によっては別途処罰を考えるやもしれぬが、エリザ・バジーとやらに気に入られているなら、不敬罪で首を切った方がことだろう」
冗談だとはわかりながらもこっちに向けた視線は冷たくて少しばかりぞくりとする。まさしくサウラ・ジェゼロがしてきた目だ。
「今日は疲れた。もう開きでいいだろう?」
「はい。ではまた明日」
エユが立ち上がる。
「あの、本当にご迷惑をおかけしてしまいまして」
もう一度頭を下げる。
「これ以上は勘弁してくれ。少しは行動を慎めよ」
ふっと表情を緩めて返される。
部屋を出る前にもう一度エラ様を見る。入れ替わりで入ってきた子守りのリセからユマ様を受け取っていた。ぎゅっと大事そうに抱きしめるのとは対照的にそれを見ているベンジャミンは随分と苦しそうな顔をしていた。




