トワス・コナー 1
牢屋に話を聞きにいかねばならぬと思っていたが、城の医務室に行くこととなった。医師としてまで働かされているハザキがこちらを見て息をついた。
使い古した白衣を纏った姿はいつもよりもくたびれて見える。医師としてよりも政治に身を置いている方がこれは輝いている。
「エラ様。お手数をおかけいたします」
医務室の前で待っていたハザキが小さく頭を下げる。
「国王など面倒と責任を押し付けられるだけの仕事だ。それで、二人の状態は?」
促すと閉まった戸を一瞥した。
「誘拐犯の男はまだ意識不明の昏睡ですが、一命はとりとめたと思っていいでしょう。幸い発見が早かったことと、毒については知識が無駄にありますので。脳へ障害が出ていないかは目が覚めるまで判断は難しい状態です。このまま目が覚めない危険性もあります」
「毒の入手経路は?」
「通例通りに用意した食事です。普段はほとんど食べなかったので助かっていたのか、もしくは何か察して誰かが毒を入れたかです。以前の毒物混入も、犯人特定には至っていませんので……」
「それは、辛いな」
ハザキが小さく頷く。一度は許した。だが、二度も笑って許してはやれぬ。
「トワス・コナーは、馬に足を踏まれて左脛骨腓骨を骨折。固定だけ行っています。命にはかかわらない怪我です。直ぐに話を聞けますが?」
「ああ。その為に来た。お前はここで待て」
いつものように追従するベンジャミンに声をかけ、ハザキと共に医務室へ入る。中には兵が一人監視についていたがハザキの指示で外へ出る。
三つ並んだベッドの内、真ん中だけが空の状態だ。トワスから男の様態が見えぬように間に一枚のカーテンを引いているが、自殺防止のために他はカーテンをしていない。
服毒した男には生命確認の装置がつけられている。オオガミが持って帰ってきたオーパーツの一つだ。そして壁際のベッドには青い顔をした男が足を吊られてベッドに横たわっていた。背中にはクッションを敷いているので顔はよく見える。
「……」
口を真一文字に閉じたトワス・コナーの傍に歩み寄る。
「さて、話があるそうだな」
「………」
オオガミとハザキが行う尋問の場に無理矢理同席した後、用事があると場を離れ森で確保されたと聞いている。毒殺の指示を出すくらいの時間はあっただろう。ユマを攫い、何がしたかったのか。身代金狙いだけならばまだかわいいものだ。
「……誠意を、あなたからも誠意を見せていただかなければ、言うことはありません」
ちらりとハザキを見るとただでさえ怖い顔がさらに渋面だ。
「国王たる私に、誠意を見せろと?」
「ずっと尽くしてまいりました。だが、あなたは私を見もしないではありませんか」
議会員としては若く、歴も短い。元々は地整管理の仕事をしていた。ベンジャミンがいない間、何人かがその代わりをしていた。資料作成などで何度か手伝ってもらったか。無論、その場で礼や労いはかけるようにしていた。そもそも給与の出ない奉仕ではない。
「それで、ユマを攫ったとでもいうのか?」
声を低くして問う。
「私の思いに気が付いているならば、ただの一度返してくださってもよろしいではありませんか」
荒らげて返された声に眉根を寄せる。
「ほう、何をしろと?」
ベンジャミンに対していちいち突っかかっていたが、あれを解任しろとでも言いだすか。無論そんなことはあり得ない。
「一度でいい、あなたからの接吻を……。それで、全て話しましょう。あなたの犬のために」
まっすぐと見上げた目はあまりにも強い意志があった。




