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国王陛下育児中につき、騎士は絶望の淵に立たされた。  作者: 笹色 恵
~女王の計略~

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ハザキ医師の疲れる日

 コモ・バジーは自分よりも一つ年下だ。頭だけは悪くない。特に記憶力はオオガミに次いでいた。幼少期はオオガミやこのコモ・バジーともよくつるんでいたが、今思えば、不思議な組み合わせだった。

 ハザキ・シューセイは旧友を見下ろしため息をついた。あの男を入れたのとは別の牢だ。三人揃って幼少期にぶち込まれたこともある。

「いやぁ、大人になってからだと小さいもんだね」

 暢気な男にため息をついた。

「お前は、何をしたかわかっているのか?」

「いやぁ……まさか信じたとは。それに、呆けた婦人を少しでも楽しませようとしただけだよ」

「……はぁ……」

 歳を取ってからはこれを苦手と思うようになった。打てば響く訳でなく、打った感触すらない。サウラ様までが、あいつはど変態だなと言っていた。確かにそうだ。

 まだほんの二年前の話だ。エラ様が戻られてからは一年半しか経っていない。あの混乱の中、コモ・バジーはふらりと旅に出て、エラ様が復権された後も最近まで戻ってこなかった。エユ・バジー含め、親類は十年戻らなければ葬式をしようと決める程度で捜索もしていなかった。若いころにも放浪して二年ほどしてひょっこりと戻ってきた経歴の所為もある。運だけはいい男だ。

「虚言癖に近い作り話や空想も昔から得意だったが、老人を騙した挙句長々と私財を食いつぶしおって」

「裕福な婦人だったし、衣食や紙とペンだけで高価な物をねだったりしていないよ」

「しばらくここで猛省をしろ」

「あ、毛布を置いて行ってくれないかい。それに、そろそろお腹が空いてしまって」

 どこまでも暢気な馬鹿を置いて牢場を出た。

 一応見張りは立てているが、飾りのようなものだ。無駄な仕事をさせられている兵を労い小さく頷く。立派に勤め上げますとでも言いたいように首を一度縦に振り返し背筋を伸ばして立っている。ベンジャミンが戻って再教育した結果ともいえるだろう。ハザキの目が届いていなかった自覚しはしている。

 エユが報告に行っているが、別件含め陛下に会わねばならぬと歩き始めたとき、廊下から兵が息を乱して走ってくる。今日はこれ以上面倒が起きるのかと内容を聞く前にうんざりした。

「ドクター・ハザキ。牢の男が服毒をっ」

 本当に、嫌な日だ。


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