ジェゼロの歴史学者 前
図書室には何人かの人がいる。案内してくれた後、兵士は持ち場へ戻った。
自分がユマ様の子守りであることは周知されているらしく、城内で咎めとして声をかけられることはなかった。
ジェゼロには町にも図書館があった。持ち出しはできないが、ジェゼロ国民は利用ができる。よそ者の自分が、城内の書庫に入れる機会が来るとは夢にも思っていなかった。
本は最大の娯楽だ。それと同時に人の価値を高めるモノだ。ずっと、文字に埋もれて死にたいと考えていた。紙すら貴重な生活をしていた。それに、ちゃんとした歴史の本など、目にしたこともなかった。
文字は読める。難しい言葉は昔に拾った事典でたくさん覚えた。
背表紙の文字を追う。
ジェゼロ歴の初めはカギのかかった棚に入っている。許可なく読めるのは二百年目の秋の日から始まっていた。この国は秋祭りを起点にして、五穀豊穣を神に感謝する。そのために、国王が小島へ入り儀式を行う。
ジェゼロの国王は、他の国と違って厳格な血縁関係を求められる。王になるのは女性なのは、父親と違い、間違いなく母親だからなのかもしれない。そして、神様がまるで本当にいるかのように、この国の王様は神によって認められている。
王の血。それだけだ。それでも、エラ・ジェゼロは国民に好かれているようだった。それどころか、不当な扱いを許容したことへ罪の意識を抱いている者すら多い。何よりも、この国の国民はよそ者のどこの出とも知れない自分に対してすら優しく、気持ちが悪いことに見下すことも少ない。双子の店主はナサナ出身で同情して雇ってくれた。ジェゼロの民は奴隷然と扱われる世界が外にある事を知らないのかもしれない。
「珍しいものを呼んでますね」
視線を上げるとメガネの男性がいた。薄い髪色に青い目がキラキラと輝いていた。
「あの……」
許可を得ていますと言いかけて、別にそんなことを求めていないと察して口を閉じた。
「九代目ジェゼロ王の時代だね」
「三百年以上、同じ家系の王が続いていたと聞きました。歴史的に、その、本当にそうするのは難しいし珍しいので」
「そう、そうなんだ!」
長椅子の前の席に腰掛けると前のめりに返してきた。




