散歩にいこう 中
「用意ができたぞ」
戻られたエラ様は外出用の上着を羽織り、首の後ろで髪をひとまとめにしている。元々ジェゼロは質素な王族だ。それでも平民と全く同じ格好では示しがつかない。双子はその点いい仕事をしている。
ユマ様を抱っこ紐に通し、抱え上げる。
「今日は乳母車を使うぞ」
「承知しました」
執務室へ剣を取りに戻り、帯刀する。執務室まで刃物の持ち込みを許されるのは国王付きだけに許された権利であり義務だ。
陛下の部屋の前には二人の警備と一人の控えがいる。この場の警備に関しては任命権を頂いている。剣の腕はもちろん、身辺調査と人格に問題がないものだけを選んでいる。昔は議会員の子息などが多くついていたエリートの部隊でもあったが、自分がこの任についてからは家名問わずに採用している。自分がいない間に、勝手に配置を変えられていたが明らかに政治的意図が見えた。ジェゼロ王一極に権力が与えられないように設けられている議会院だが、先の混乱で有識者の多くが離れてしまった。無論戻った者もいるが、内政は静かに混乱していた。
城内でも最低一人の警備兵をつけるようにしている。それを帯同させ、城門まで向かえば別に三人の警備兵が待機していた。一人は指示をしておいた乳母車といくつかの荷物を持っている。
「先に少しだけキングに会っていくから、少し待ってくれ」
エラ様が足早に城門近くの馬小屋へ向かう。指で支持して前で待機を伝え、一人ついていく。
この行動は予想していた。先に馬小屋内は確認させている。
「おーう、エラ様、キングならちょっと前からお待ちかねですよ」
中で馬糞の掃除に勤しむホルーが気安く声をかける。
「ああ」
漆黒の牡馬に駆け寄ると、前足を鳴らしていたキングなどと仰々しい名前を賜った性格の悪い馬が甘えるようにエラ様へ鼻先を押し付ける。
「ユマ様も随分大きくなられて。うちのガキんちょもこんくらいの時はわがままも言わずに可愛かったのになぁ」
図体のでかいホルーを見ても、ユマ様は手を伸ばして笑っている。ホルーは好きな部類らしい。
「歩き始めたら大変だぞ」
「お前とハザキ嬢の子と一緒にするな」
ハザキ・シューセイの娘はオオガミに並ぶ頭のねじが可笑しな女だ。
「親馬鹿め」
黒く日焼けした顔を歪めて笑う。その言葉に機嫌が悪くなる。




