尋問 後
「ハザキ。鍵」
牢の鍵を言われるままに開ける。軋む牢を開けると、でかい図体を屈めて中へ入っていく。
「名前を名乗らないから、三番とでも呼ばせてもらおうか。ああ、俺のことはオオガミと呼んでくれ」
軽い調子で話し出す。
「一番と二番はすでに拘束した。まあ、本当に捕まえるべきは四番なんだろうけどな……元よりジェゼロに入っていない上に、他国の者となれば容易には捕まえられないからな」
オオガミがその眼でじっと男を見ながら言う。
あえて三番と呼んだ男がその情報がどこまで真実か疑うような恐怖したような目で見返した後目が泳ぐ。
「金か……いや、他が言うように止むを得ずか……やはり、そういう相手となれば、国王はできるだけ極刑にせずに済ませたがるだろう。だがもし、一人でも恩赦を与えたとなれば裏切りを疑い、約束を反故にされるだろうな。残念だが、ここまでの危険を冒させた上に何も打開策を講じないのは切り捨てたからだ。首でも晒してやる方が、三番には親切かもしれないな。命を賭して、守ることができればまだいい」
まともな恰好をしているのは剣の師範の小言の成果かと思ったが、今回のためだったのかもしれない。トウマ・ジェゼロだった頃を思い出す。まともな風体とすべて知っているような雰囲気は相手からすれば得体が知れず気味が悪いだろう。
「よくもそう嘘を語れるな」
忌々し気に男が口を開く。食事や水分をまともにとっていないせいで酷く掠れていた。
「ならば、一人釈放するように進言しよう。後の二人は拒むだろうが、三番は牢から出られてよい事だけだろう? もともと、見張りだけならば刑は一番軽くて然るべきだ」
同情したようにオオガミがいい枷のカギを渡せとこちらに指で支持する。それに対して異議を唱えることなく渡した。
「待ってください」
溜まらずに口を出したのはトワス議会員だった。
「そ、その、陛下の許可なく、そのようなことは」
振り返ったオオガミの目に気圧され、それだけを力なく言う。曲がりなりにも王の伯父だ。それに対して本気で逆らえば高が一議会員など直ぐに外すことはできる。それにある程度歳をとった議会員はサウラ・ジェゼロの兄がどれほどのモノかトワスと違いよく知っている。
「国王陛下はこの件をあなたに一任されている。オオガミ殿の良きように」
一言だけ添えて、トワスのバカな発言を庇っておく。
「こ、殺される。言っただろう、ベンジャミンに命令された。牢から出れば証拠は消される」
一瞬、その視線がこちらへ向く。ほんの瞬きの間程度の事だ。先の尋問で、ベンジャミンの指示と言えと言われたと一度だけ答えたことがある。ここへきてまた翻す意味はなんだ。
「残念だけどな。その方法を教えてくれたやつは、ここじゃあ大した権限があるわけじゃない。もし、今、お前の大事なそれを守ろうと思うなら、どうするのか自分で決めろ。その結果は誰かの所為にはできないぞ」
片足にだけ付けられた足枷を外す。手枷は元より付けていない。ぼろ布をまとった男は初めのギラついた目など見る影なく動揺している。
「直ぐに腹が決まらないなら、後日話を聞きに来る」
「待ってくれ」
去ろうとしたときに、慌てて呼び止める。男に背を向けこちらを向いていたオオガミがにやりと笑う。
「わかった。だが話はジェゼロ王にしかできない」
「……ああ、いいだろう」
こちらに背を向けたオオガミの表情は見えない。少なくとも笑ってはいないだろう。