尋問 前
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自分の知るトウマ・オオガミは気の抜けた格好をして身なりも適当な男になってしまったはずだったが、先日から、国を代表するオーパーツの知識人としての自覚を持ったのか、まともな恰好をするようになった。
ベンジャミンが手を打ったと聞いてはいたが、覿面だったようだ。
昔の神童と呼ばれていた男の面影がある。髭もなければ髪も解いてまとめている。服も多少の皺はあれども獣の毛が点いているわけでも汚らしい染みが点いているわけでもない。それだけで、やはり凡人とは違う雰囲気が出る。昔からどこかでこれが気に喰わないのはこういうところだ。
「相変わらずここに皺が寄ってんな」
眉頭に指をやりオオガミが言う。中身までは直ぐに修正は困難だったか。
「……何か策が?」
「薬と機械、どっちがいい?」
にやっと笑って言う。頭だけでなく美少年としても名を馳せてきた残念な中年は、それでもやはり造形がいい。妻だけでなく同世代の女性陣は大抵がこれを好きだったと最近の同窓会で話していたのをふいに思い出した。
「お二人の尋問に同席させていただいても?」
見計らってやってきたトワス・コナーにオオガミが冷めた視線を向ける。飄々とし何を考えているかわからない男だが、芯は冷めきった奴だとも思う。
「現議会員だ」
「ああ、それくらいは覚えてる。あんまりよくない噂もな」
「これは手厳しいですね。トウマ様」
「好きに呼んでいいが、そっちで呼ぶつもりなら、相応の対応をしろ」
無駄に背の高いオオガミが見下して言う。
「王位争奪を考えれば、あなたにも誘拐指示の可能性がありますので」
一瞬ひるんだようにも見えたが、トワスは引かずに言う。
「とっとと行くぞ。ああ、もし一言でも口を出せば、お前を共謀罪で独房に入れる」
あからさまに不機嫌になったオオガミがそれだけを言うと先を歩く。
ジェゼロ城の地下にある監獄の鍵を監視員に開けさせる。湿った匂いのする階下へ下りるともう一つ鉄格子のドアがある。
奥には男が一人いる。何度か会ったが、もうろくな情報は出てこない。
すえた匂いが鼻に付く。まだ死んでいないのはいいがひと月持つか。毒を盛られるのを恐れてか食事はほとんどとらず入り込む雨水でのどを潤しているようだ。
「……」
目だけはまだぎらつきがある。




