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国王陛下育児中につき、騎士は絶望の淵に立たされた。  作者: 笹色 恵
~騎士の帰国~
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王の役目


 戻ってきたベンジャミンは、やはり怒っていた。子を産んだことを、懐妊したことを知らされなければ、当然だろう。だが、あれが行っていたのはジェーム帝国の神殿内だ。とても重要な任務であり、知らせれば確実に戻ってきただろう。あまつ、帝国に知られれば帝王までが押しかけてきかねない。

 それに、胎児の育ちが悪く、主治医のハザキからはいつ流れても不思議がないと安静を言い渡されていた。城内ですら安定するまで極僅かしか知らせていなかった。時間は長くかかったが、無事に元気に生まれてくれた。その頃にはベンジャミンたちが戻ると知っていたので、改めて書簡を送りはしなかった。産まれたてでこちらも大変だったのもある。

「エラ様こちらにベンジャミンが来たとか?」

 やってきたエユ・バジー議会院長が早々にそのことを聞く。

「ああ、無理をして急いできたようだ。体調がよければ晩餐をともにしようと考えている」

「……城門近くで倒れたようで、今はハザキが診ています。本日はこのまま安静を要するとのことです」

「それは大事ではないか。見舞いに行かねば」

 立ち上がるとエユが手を挙げて制する。

「エラ様が行っては休むことすらできないでしょう。明日、こちらへ報告を兼ねて向かわせます。念のための休養とのことでい」

「うむ……そうだな」

 自分がいては無理をしかねないのはわかっている。謝罪を含め色々と話したいこともあった。向こうでの事も色々と聞きたかったが、大義を果たした後だ少しは休養を与えてやらねばなるまい。

「ユマ様はお生まれになった頃よりはっきりとしたお顔になられてきましたね」

 執務室に乳幼児用ベッドを置いている。そこで今は大人しく寝ているユマを見て言う。確かに生まれたては人よりも動物に近かった。

「エラ様も肥立ちがよろしいようですが……寝不足もおありでしょうから、昼間にも休息を。王にとっても大義は執務をこなすよりも健康であられることですよ」

「う、うーむ。わかっているぞ」

 目だけで本当にと問われる。

「女児を産むことが最大の務めであるとも、理解している」

 女しか王に成れぬ風習はもう必要なくなるかもしれない。だがそれを決めるのは王ではない。

「いや、役目もあるが、あれに娘も見せてやりたいからな」

「……あくまでも闇閨ですので、今のお話は耳に入りませんでした。それで、ベンジャミンには引き続きオーパーツ関連の任務もありますが、国王付きとしても戻るようにしますか?」

「ああ、あれの多才も善し悪しだな」

「結果、自身の首を絞めるほどに。まあ、陛下の許で働かせることが最大の賞与になりましょう。立場を違わないのであれば、何かを言うつもりもありません。エラ様の支えとしても必要でしょう」

「ああ」

 正直言って、出産の痛みよりも、出産までの長期にわたる妊娠期間の方が余程辛かった。食べ物を受け付けぬ時期もあったし、寝返り一つ注意される時期もあった。先王は自分を産んだ日にも毒草畑まで出かけていたと言うのに。祖母はとても難産だったと聞くが、そちらを継いでしまったようだ。もし、そばにベンジャミンがいてくれれば、どれだけ心強かったろうかと思う。だが、王としてはあれを引き戻すことは叶わぬし叶えてはならなかったことだ。

 何せジェゼロの神と前王の兄であるトウマ・オオガミを制御できるのはベンジャミンくらいだった。シューセイ・ハザキでも不可能ではなかったろうが、すでに三国同盟の対応を担っていたし、オーパーツに対する理解を考えると少し問題があった。頭脳だけが優秀なものでは、ジェゼロの権威あるものとあまつ帝国の最深部という状態に対応ができない。

「サウラ様もあなたを産んだ時に、ちょっと興奮しすぎて本当に壊れたんじゃないかって周りが冷や冷やしたんですよ。あのまま、素直に愛情を出していられたらよかったんでしょうけれど、サラも、親子関係がぎくしゃくしていたから……普通の親子とはいかないでしょうけど……あなた達とこの子には親子として幸せになって欲しい。それがただのエユとしての願いであることは忘れないでください」

「ああ……」

 本来、夫は持てない。閨を傍に置くこともできないが、功績のあるベンジャミンを暗に退けるのは議会院でも難しい。

「子には親がいた方がいい。それが親になろうとする者ならば……な」

 ジェゼロ城の近くにある教会には孤児院と学校が併設されている。孤児院には親がいる子が預けられることもある。議会院でそれを決める事もある。育児放棄や適切でないと判断された場合だ。ジェゼロにあるその格言はまさにサウラ・ジェゼロに当てたようなものだ。

「エラ様ならば、よき母になれましょう。よき王であるのですから」

 サウラ・ジェゼロの親友だったエユ・バジーはまるで母のように優しく言う。

 母親業は既に一杯一杯だ。世の母親がよくやっている。王と言う立場から助けは多い。それでも大変な事だ。これからは特に、父は必要になる。子にも自分にも。

 まずはやつの怒りを鎮めないといけないな。


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