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国王陛下育児中につき、騎士は絶望の淵に立たされた。  作者: 笹色 恵
~騎士の帰国~
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来客の多い日 前

 エラ様は、母になられてもエラ様以外の何者でもない。旧時代のオーパーツが大好きな割にのみ込みが遅い。妊娠中、体調が優れていなかったらしく、未消化の仕事はあまりある。子育ての合間に仕事をこなし、且つ帝国から持ち帰った大好物を学ぶ機会も必要だ。時間配分を考えれば、赤子の世話に対する負担軽減が一番安易ではある。

「なんだ。不服か?」

「いえ、子守りの経験もユマ様への対応も悪くありませんでしたので。また解雇となるかもしれませんが、安全策を講じたうえでならば、出身で不服はございません」

 事前に、応接室には映像機と収音機を置いている。ジェーム帝国から持ち帰った復刻されたオーパーツだ。執務室には投影機を設置し、ドアを隔てていても逐一確認が取れる状態にしていた。

 自分がエラ様の周辺事全てをできる訳ではない。できる限り安全に対応できるよう、別の者に任せなくてはならない事もある。

「一応、出身地の調査もさせます。左右の二人から事前に聞いていたのと同じアビリオの地は、砂漠地帯にほど近く、あまり良い環境の土地ではありません。教養は最低限あるようですが、血筋までは追えない可能性が高いかと」

「犯人が捕まっていれば、こういう手間も減らせるのだがな」

「申し訳ありません」

「責めてはおらんよ。それに、警戒心の薄さも露見した。未遂で終わったならば収穫としよう」

 エラ様の表情が曇る。あれから日が立った。捕らえている犯人の一人は衰弱し始めている。いくつか新たに口を開いたことはあったが、多くの情報は得られなかった。ハザキが尋問に行った際に自分の名を出したのも、命じられての事だと口を割っている。それを命じたものの名は知らないと頑なだ。今では舌を抜かれたように口を閉ざしている。自身の無実の証明などよりも、主犯を割らせる事が重要だ。

 内部の手引きした者がいると推察はしているが。それがまだしっぽを出さない。オオガミが持ち帰ったオーパーツを仕掛けてはいるが、まだ成果はない。

「本来ならば、既に死刑にしてやりたいところだがな、勝手に死ぬか、何かの駒になるまで生かすか」

 エラ様が珍しく厳しい顔をされる。お子であるユマ様の命の危険があったのだ。当たり前だ。それにすら嫉妬する卑しい自分がいる。もう少し、エラ様に魅力がなければ、もっと冷静に生きられただろう。つくづく、こうも愛らしい方をお産みになったサウラ様が恨めしい。

「オオガミが、例の男を尋問したいとのことです。ハザキ同席で許可をしても?」

「ああ、お前はいいのか?」

「口裏合わせの可能性があるそうで、禁止をされています。無駄な疑いを受けたくはありませんので」

 エラ様は自分の名が出ても全く疑われなかった。それでも事実に関係なく権力争いの手として使いたい者は少なくない。

「お前が会わないのは私も賛成だ」

「……」

 寝ているユマ様を見下ろしていたエラ様が愛おしそうに笑んでいる。

「ユマを危険な目に遭わせた相手だ、殺しかねないからな。そうなったら証拠隠滅を疑われる」

「エラ様が直接詰問をされないのはご自身で始末をつけてしまいそうだからで?」

 議会院がそのようなことは王の仕事ではないとごねているのは知っている。だが、それを素直に聞くほどジェゼロ王は慎ましくはない。

「ユマにもしもの事があったら、今頃吊るしている。そうでなくても非道な事をしてやりたいくらいだ。目の前にして冷静でいられる自信がないからな」

 自分の知るエラ様は、すでに一発は直接殴っている。だが、それをしていない。たった一年で、自分の知らない変化が確かにあった。それが、憎らしい。

「それは得策でしょう、美しい手に傷を付けたくはありません」

 どうしても腹の底に燻る。自分はエラ様に触れた相手を知ってしまったら、何をするかわからない。ユマ様が成長して面影がわかれば、聞かずとも知れてしまう。

 そんな邪な事を考えていると、来客がある。今日は人の出入りが多い。


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