リセ・ハンミー 中
こじんまりした応接室で男が待っていた。整った見目の男は双子の服屋の店主に持たされた服を既に着ている。着丈の確認のためなのだから当たり前か。それにしたって、店主の美的センスは冴えている。貴族の方だろうか、なんとも言えない品がある。一瞬彼が国王ではないかと思ったがそれにしては大きい。陛下の服を作っているのを見たが、もっと小柄な服だった。
「あ、初めまして、左右のお二人の遣いで来ました。リセ・ハンミーと申します。いくつか寸法の直しがないか確認させていただきます」
「手早くお願いします」
淡々とした物言いで、男性が言う。いくつかの修正箇所に印糸を入れていく。裁縫はおばあちゃんから教えられていた。女だからと家事をさせられるのも好きではなかったが、何事も自分の糧になるのだと実感する。
「失礼ですが、どこかで会ったことは?」
「……いえ、貴族の方とお会いしていれば、覚えていると思います。それに、私の様な国外のものは目立ちますので」
自分の見た目はもっと熱い国のそれだ。地肌の色味がこの国のそれとは違う。
「どちらの出身で」
ここに来て何度か問われた。よくある世間話だ。
「アビリオに近い国です」
ズボンの裾の長さを確認してから立ち上がる。見下ろす目と見上げる自分の目が合った。今更、品定めをされていると感じた。
「ローヴィニエとナサナの間にある、安定の悪い場所ですね」
「はい……戦に巻き込まれ、家族を失いここまで」
「戦争孤児は受け入れていないはずですが?」
同情もなく淡々とした声で問われる。
「か、買い付けでジェゼロを出られていた左右のお二人に雇って頂きこちらに来ました。正式な手続きをして許可も下りて滞在しています」
慌てて言う。不正滞在と疑われては二人に迷惑がかかる。
「そうですか。どうしてジェゼロへ?」
「……全部なくなって、私もどうせ死ぬならこの世の楽園を見てみたかったので」
神話に出てくるジェゼロはもっと華やかだった。だが、ここはそれよりもふんわりとしている。
「まあ、巡礼者などには、予想以上に田舎だと言われますが……それほど期待には沿えなかったでしょう」
「いえ……わたしは、優しい雰囲気がして好きです。私の村は小川の中にあったので、綺麗な水場があるだけで落ち着きます」
澄んだ水を蓄えた水瓶に、そこへ流れる細い川。それは故郷にどこか似ていた。
「直しはこれで?」
「あ、はい」
「では、ここで少しお待ちを」
廊下に出されるのではなく、男の人が奥の部屋へ入っていく。丁度、赤子の鳴き声がそのドアから漏れ聞こえた。
少ししてドアが開く。黒髪の少女、いや女性が出てくる。腕の中には、赤子がいた。
「ちょっとあやしてみてくれ」
唐突に渡される。
「は?」
「頼むぞ」
ぐっと親指を立てて中へ戻ってしまう。ドアは半分開いているが互いに姿は見えない。