リセ・ハンミー 前
褐色に近い肌に、青い瞳、それに黒い髪をした自分はジェゼロでは少し目立つ。
いくつかの国をまたいでここまで来た。今でもどうして来られたのかが不思議だった。導かれたなどとは言わない。ただ、ここはあまりにも落ち着かない。落ち着きすぎてしまうのだ。平和過ぎて、勤勉に働く人々にもどうにも慣れない。楽園があるならきっとこんな所なのだろう。神に愛された国と呼ばれるこの国の住人として、自分は似合わない。
その神の国ジェゼロの城は神の寵愛者が住むにはとても質素だった。下から見ただけではおとぎ話のお城のようだったが、近くで見るとどこに国王が住む場所があるのかと心配してしまうほどだ。
故郷ほど熱くはないが、急な坂を上り一息つく。
ジェゼロは小国だが知らぬ国などないほど有名な国だ。多くの国がジェゼロの神を崇めている。そして、どんな国か謎めいていた。来てしまえば、ただ穏やかな国だった。
「何か用か? お嬢ちゃん」
声をかけられ肩を震わせた。
「あ、双葉の店からきました」
振り返ると体格のいい青年がいた。一輪車を持っていて、馬のにおいがして、こんな城の近くに馬小屋があるのに気付いた。
「ああ、左右だっけ。門番に話したら通してくれるだろ」
言うと、手を上げて門番に何か合図をした。手を上げ返す相手を男は指さす。
「あ、ありがとうございます」
双子の左右に拾われて下働きとして仕事まで頂いた。給与を頂いてるだけでなく、ちゃんと人として扱われている。小さい頃は当たり前だと思っていたが、ここに来るまでそれが当たり前でない事だと学んだ。今日は城への使いまで任されてしまった。城から発注される仕事はお二人にとって今の生活の要だ。そういった意味でもとても重要な役を任せていただいた。粗相をして契約を切られでもしたら謝罪などできぬほどの事だ。
失礼のないようにしなくてはならない。何を言われても笑ってやり過ごす覚悟はできている。
城門の門番に双葉の店からの手紙を差し出すと横の窓口に行くように指示された。
「ああ、確かに双子の店からだ。荷物はこちらから届けておく」
「いえ、お二人から直しを見てくるように言われています」
「リセ・ハンミー……事前申請は……許可が出てるか」
門番が台帳を確認する。
「おい、誰か案内してやれ、後はベンジャミン様に確認して対応を任せる様に」
奥の門番の休憩場のような場所から一人出てきた女性兵に塀の裏に連れていかれると、両手を広げるように指示されるね。服の上から体を触られ、危険物がないか確認をされた。事務的だが不快感は感じない。仕事としてしっかりと訓練されていると感じた。
「こちらへどうぞ」
確認を下女性兵に続き門を通ってから、開けた場所にでる。そこに見た事のない馬車が一台止まっていた。正しくは、童話で見たことのあるそれだった。馬のいらない馬車。
「こっちだ」
呼ばれて慌てて付いて行く。
城の中の兵は門番よりも更に質が高いように思う。ぴりっとした緊張感があった。小さいながらも小広間のような場所で止められる。城内の兵は流石に易々とは入れないかと思ったが、包みを確認しそれを持って一度消えると少ししてから戻ってきて中へ案内された。
案内されたのは随分奥の部屋だった。それに近衛が多い。入る前にもう一度身体の確認をされた。ノックの後、許可されて中に入る。
双子の店主からは着丈などの確認を言われている。




