ローヴィニエ公国からの打診
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三国同盟を結んだ後、他国からの特使がそれはもうたくさん来た。
「ローヴィニエ公国からは初めてだな」
他の二国にもこういった書簡は多く届いているのだろうが、三国同盟の下に付きたい小国はとても多い。ジェーム帝国とナサナ国は昔から他国と諍いがあった国だ。そこに取り入るのを良しとしない国も少なくはないので、妥協としてジェゼロに書を送る事が多いようだ。無論他の二国に取り入ろうとする国も多いと聞いている。
町単位の小国も多い中、ローヴィニエ国はこの一年、別の道を模索している国だと感じていたが、一度、会談の場を持ちたいとの事だ。
これまで、どの国に対しても公的にも私的にも会ってはいない。最大の理由は自身の体調を考慮して議会院が断っていた。実際流産の危険も高かったので、今の半分も仕事はできていなかった。外交ではエユとハザキに随分と助けてもらった。
「ローヴィニエ公国は、現在は女性王が納めていたかと。ナサナの隣国で同等の大きさを誇る国ですが、三つの当地区に分かれています。その一つの地区とナサナ国は昔からいざこざが絶えず二年に一度は国境が変わるといわれる場所です。何らかの口添えかジェゼロに同盟を破棄させるのが狙いかもしれません。ジェームとナサナの二国では同盟を続けることはないでしょうが、あの二国が同盟を組む今、武力財力ともに他国では太刀打ちはできないでしょうから」
エユが問う。
「ああ、それに情報通だな。ユマの祝いと、産後間もない事を気遣って向こうからこちらへ来ると言っている」
一応対外的には男王扱いだ。情報は早いが礼に欠く。
「丁重にお断りをしておいてもよろしいですか?」
エユがユマの寝顔にデレデレした後、顔を上げて問う。
「おばあちゃんになったみたいで、すみません」
仕事で訪れていたのに、赤子に気を取られてしまったのを恥じたようにエユが頬を染める。
「エラ様の時は、サウラ様を落ち着かせるので手一杯でしたから、落ち着いてみられるのがうれしくて……」
「寝てる時と機嫌のいいときはいいんだがな。昨日も夜中に散々泣かれた」
子の親に対して手当てを出すべきだ。これは大変な労働だ。
「ああ、文面ができたら持ってきてくれ。ローヴィニエはバジーの故郷だと思っていたが?」
エユ・バジーは敬称をつけて呼ばれることが少なくはない。それは彼女のバジーの家系に関係があった。
「はい。ですがもう何代も前の事。私の故郷はジェゼロにございます。お気遣いなさらずに。それと、子守りはまだ定まらないのですか?」
にこりと微笑みエユが言う。議会院長の顔だと到底おばあちゃんのようではない。それにベンジャミンが助け舟を出す。
「シスター・ハシィがあまりいい顔をされませんのでシスター方には頼めませんし、例の一件もありますので城仕えの女中方も避けて検討しています。二人を試しに雇い入れましたが、一人、内部情報の漏洩が認められましたので解雇を。あとの一人も問題がありましたので解雇を余儀なくされました」
何も高望みはしていない。赤子をあやせて、秘匿事項を守れて、程よく距離を置ける。仕事中に居眠りをしない。それだけなのだ。
「そうはいっても、いつまでもベンジャミンとエラ様だけでというわけにもいきませんでしょう?」
「少しの間なら、案外機嫌がいいんだがな。こいつはこの歳で好みがはっきりしすぎているらしくてな、結局ベンジャミンが泣き止ませに行くことも多くてな」
王の子の面倒を見るとなればそれなりにストレスにもなる。ただ、シスター・ハシィに頭を下げて面倒を見てもらうくらいならば、自分で見る。いや、ベンジャミンに見させる。
「……あ」
思い出して声を上げる。キョトンとするエユとは対照的にベンジャミンが少し目を細めた。こいつには私の考えが見えているのではないかとたまに心配になる。




