負けず嫌いな王を騎士は独り占めにしたい。
夕刻にユマ様を引き取りに行く。可愛い息子は徐々に人として個性が見え始めていた。
ふと昔の事を思い出していた。幼少期栄養状態が悪かったのか、体は今からは想像できないほど細く小さかった。親もいないとなれば恰好の的になる。文字通りに悪餓鬼に石を投げられていた時、エラ様が割って入って怪我をしたことがあった。子供心に酷く情けなくてその頃から、オオガミの元へよく行くようになった。あれは合理的な体の鍛え方や勉強方法を惜しむことなく教えてくれた。子供だからと、馬鹿にしない所だけは今も尊敬している。品のなさは見習わないが、自分も、ユマ様にとってそうでありたい。
エラ様は昔も今も変わらない。昔から強くて守る必要など本来ないだろう。
「エラ様、食事はこちらへ運びますので」
寝所のドアを開けて声をかける。
「稽古の予定を入れてくれ」
エラ様が少し掠れた声で言う。
「体力は回復したが筋力やもろもろが衰えている。このままで済むと思うなよ」
昔から負けず嫌いで、努力家でもある。
「承知しました。明後日以降に予定を入れておきます」
「くそっ、かまととぶりおって。これだからミサがお前を信用しきらなかったんだぞ」
懐かしい恋敵の名前を耳にした。確かにあれの見る目は確かだった。
「自分もエラ様に負けない努力家ですので。知識だけはきっちりと調べました。実技は私の道徳に反しますので、不貞を働いていた心配をまたするようなことはないようにお願いいたします」
「絶対に目にもの見せてやる」
「いつでもこちらの特訓には参加いたします。何せお互い他には組手の相手がおりませんので」
「当たり前だ! 馬鹿者。こんなこと、お前以外に許すかっ」
エラ様に怒鳴られて心の底がなんとも言えない感覚になる。
ひとまずおしまい。
多分別シリーズで続く???
ミサについては前作でご確認ください。
そんなこんなでベンジャミンの勘違いでこじれた関係もひとまず元通り。
一発大当たりだったので、これだけ偏愛的なベンジャミンがエラの寝所に閨として入ったのはこれでようやく二度目と言う……果たして三度目も一年以上待てをくらわされるのか!?
という所で今回の王様シリーズはひとまずおしまい。




