優しい手
坂道は馬車で上がった。城について、部屋に入ると大きな欠伸が出た。
「ユマは空気を読んで泣かないな。それともお前の腕の中だからいい子にしていたのか?」
ベンジャミンの腕の中で指を咥えるユマの頭を撫でる。柔らかい髪だ。
「エラ様がいなくて昨晩は寂しかったようです。今は泣きつかれたのでしょう」
いつもと変わらない調子でベンジャミンは返した。
「お疲れでしたら、少しお休みになられますか?」
「………」
疲れてはいた。寝ないとまともに動けない体質もある。だが、一人で眠る気にはなれない。それに、国民や議会院は中々の騒ぎだろう。いつ呼びに来るかわからない。
「少し、お待ちを」
ベンジャミンが執務室から出ていく。本当に直ぐに戻ってきた。
「人を入れぬように指示しています」
言うと頭を撫でられた。
「お傍にいますから、少し休みましょう」
「うん」
きっと、このままジェゼロを出たいと言ったら、ベンジャミンは一緒に来てくれるだろう。
「ベンジャミン」
「なんでしょう」
「私も、お前に負けないくらい、お前の事が好きらしい。だから、お前だけは、私の傍にいてくれ。私がちゃんと死ぬまで」
言うと、ベンジャミンから口づけを落とされる。
「その命の解任はしないでくださいよ」
「させないように善処しろ」
抱きしめられたので抱きしめる。間のユマが不服なのか嬉しいのかわからない声を上げた。
「たまたま、エラ様はジェゼロ王としてお勤めをされていますが、世の中色々な仕事と人生があります。私は、あなたと歩む人生なら、場所や状況が変わっても大差はありません。それだけは、忘れないでください」
囁くように言うと、寝室へ誘われる。
ドアを開けて、そのままベッドへ寝かされる。
「……普通に寝かしつける気か?」
何かおかしいと布団を肩まできっちり入れられて口に出た。
「エラ様が睡眠不足になると思考力がご自身の考えている以上に下がります。お傍にいますから……」
ベッドに腰掛けると頭を撫でられる。どうせすぐに眠れない。
「ずっと、ベンジャミンとユマに会いたかった。ただ一晩離れただけなのに……な」
よく一年近くもベンジャミンなしでいられたものだ。
眠れないと思ったのに、ベンジャミンの傍にいるだけで、急に、安心して……




